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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第八十話 白い病(3)

 奇妙な病でした。身体中に白い斑点が出来、やがて身体はすっかり大理石に変わってしまうのです。


 最初は激しい痒みが全身に走り、ひっかけばひっかくほど激痛が走り、しかも伝染するので、皆患者を避けていました。近代医学の知識を人類が獲るはるかに前の話でしたが、それでも何となくわかるのです。


 皆他の人と会いたくても会えなくなり、孤独のなかを過ごすことになったのです。話してくれた人はとても話したがりな性格で、誰にも会えないのは辛かったそうですよ。


 その人――シェルアさんという女性は寂しくて窓辺に寄りかかって、何かやってこないかと期待していました。


 鳥の類いであれば、部屋のなかに舞い込んでくれるかも知れません。


 しかし、何もやってきません。鳥たちすら病に罹って、大理石に変わってしまったのかとシェルアさんは思ったそうです。


 古代から人が人と会えないと寂しく思うのは変わりがないようですね。


 僕は独りで長い時間いてもかくべつ寂しく思わないのでずっと不思議だなあと思ってきました。


 お腹も空いてきます。蓄えて置いた食品を少しづつ消費しながら、シェルアさんは一ヶ月近くを部屋のなかで過ごしました。


 でも、いずれはすべて尽きるときが来ます。


 水すらなくなって、喉はカラカラ、意識はもうろうとしてきたそうです。家族はどこかに行ってしまって連絡も取れません。


 今のように電話もない時代ですからね。


シェルアさんは何も手立てなく窓辺に力なく寄りかかっていました。


――このまま死んじゃうのかな。


 って思ったそうですよ。


 その時。


遠くから藍色の裾が長いローブを着た若い女性が悠々とこちらに向かって飛んでくるではありませんか。


――ああ、神様がやってこられたのだ。私は天国へいくんだ。


 シェルアさんは昔の人ですから、そう考えたようです。今なら、幻覚を見たと思うでしょうか。


「ああ、神様。私を天国へ連れていってください。もうこんな苦しみはごめんです。大理石には変わりたくない。でも飢えて死ぬのはもっと辛いです」


 シェルアさんは女を見て懇願しました。


「あいにく我は神ではない」


 女は静かに答えました。


「我は血に汚れている」


 そう言う女の藍のローブには確かにずいぶん前について乾いたと思われる血の痕がついていました。


 これが普段通りの時なら、シェルアさんは取り乱して逃げ出したでしょう。でも、今は飢えて死ぬ寸前です。


「神様、あなたが例え血に汚れた神であっても、救って頂ければありがたいのです! もうお腹もぺこぺこです」


 シェルアさんは叫んでいました。


「腹が空いているのか?」


 女は訊きました。


「はい」


「なら、食えるものを探してくる」


「ありがとうございます。ありがとうございます。何でも良いです。人間の食べられるものなら! できればこの街以外のものが欲しいです。ここは病に冒されているので、全ての人は大理石に変わってしまうのです。お願いします! お願いします!」

 

 シェルアさんは重ね重ね懇願しました。


 女は答えず、また長いローブを靡かせて、遠くの方へ向かって飛んでいきました。

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