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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十九話 雌豚(8)

「そうなんだ! 楽しそう」


 レギナは興味津々だった。

 

「楽しかったよ。ちょっと臭いことになったけどね。手が」


 カミーユは答えた。もちろんディナと呼ばれた化け物を介して。


「どういうこと?」


「血だらけになっちゃったんだ」


 カミーユは嬉しそうな顔になった。


「ええっ、なんで」


 レギナは訊いた。身体は自然と震えているようだった。


「それ以上は」


 ズデンカが言おうした時。


「首を切ったんだよ。ワンちゃんのね。首を切って並べたの。楽しかったよ。ふふふふふふふ。どうしてそんな顔するの? 私が此の話をすると、いつもみんなそんな顔になるよ」


 いくら幼くても、異質な存在はすぐに見抜くことが出来るのが人間だ。それが時とすれば言い掛かりじみた差別となり、またあって当然の防衛本能ともなる。


 カミーユが恐ろしい恐ろしいことを言い立てる――実際に話しているのはディナだったが――たびにレギナは蒼白になり、とうとう最後まで来ると柵を乗り越えて雌豚に縋り付いていた。


「ほんとにドロタさんが好きなんだね! じゃあ、レギナさんとドロタさんを一緒にしてあげるってのはどうだろ? 獣と人の合いの子として生まれたレギナは、人の愛を求めて荒野をさまよう! 二人とも親がいないみたいだし、お似合いだと思うよ? あ、そうだ。私もいないんだった。殺しちゃったから!」


 もうディナに喋らせることもなく、トゥールーズ語で叫びながら、カミーユは凄い勢いで柵に迫った。


「やめろ!」


 ズデンカは後ろから肩を押さえた。


「ズデンカさん、なぜ止めるんです? そっか。平気で他の生き物は殺められるのに、自分が一番死ぬのが怖い性格をしてるんだとか思っているんでしょう? なら、そんなことはないですよ。私は今すぐにでもこの命を止められます。簡単ですよ」


 と言ってカミーユはまた片手でシャッフルを始めるとも片手でナイフを抜き、自分の頸動脈へ向けた。


ズデンカはカミーユが何を言ってるかよくわからなかった。もちろん言葉として意味はわかるのだが、本質的な意味を掴み損ねている。


「それも、やめろ、お願いだ。やめてくれ!」


 ズデンカは必死で叫んだ。


 カミーユの首の皮に血が滲む。前にルナに対して同じことをやったことを思い出した。


――こいつにとって、自分の命も他人の命も同じだ。ゴミのようにたやすく捨てられる。あたしがこれ以上止めようとすればカミーユは己を殺すだろう。


 ズデンカが戸惑っている間にディナはその白い全身を液状に融解させて柵の間を擦り抜け、レギナとドロタを包み込んでしまった。


「さて、もういいでしょう」


 カミーユはナイフを収めた。


「何てことをした! あいつらには罪も何もないんだぞ」


「罪も何もあるなら殺めていいんですか? 殺すことには何も代わりはない。ズデンカさんだってルナさんだって、たくさんやってきたんじゃないですか?」


 内心何時も自問自答していることをズバリ言い当てられた気分だった。


「……」


 ズデンカは黙ってしまう。


 融解したディナの下に蔽われた二つの塊が、やがて一つへと連結した。


「面白いお話になってきましたね!」


カミーユはトランプを繰る速度を早めながら叫んだ。

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