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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十九話 雌豚(4)

「レギナさんですね! よろしくお願いします!」


 ルナは脱帽してぺこりとお辞儀した。子供相手でもこうして頑なに対外的な丁寧な物腰を崩さないあたりにズデンカは自分と似たところを感じて好もしくなった。


「……」 


 しかし、レギナは黙っているばかりだった。


 まあ、話をし辛いやつの相手をした経験など、ズデンカには幾らでもある。


「豚を飼ってるんだよな。名前は確か……ドロタだったな?」


「うん」


 レギナは頷いた。


「なんで散歩なんかしてるんだ?」


「あたしと、ドロタには特別な繋がりがあるの。朝は二人だけの時間。だから散歩するんだ」


 少女は急に饒舌になった。両手を強く握り締め、目を輝かせ息も上がっている。ドロタに対する思い入れが強いようだ。


「そうか友達なんだな」


 ズデンカは言った。


 人ならざる者である自分が、人と一緒にいたいと願う。何で豚と少女を笑えようか。


「うん、友達」


 少女の顔が和らいだ。


「キミは意外と子供に好かれるんだね」


 後ろで大蟻喰が腕組みをしながら、にんまり笑って言った。


「うるせえよ」


 ズデンカは振り返って小声で呟いた。声を荒げると確実にレギナを怯えさせると思ったからだ。


「じゃあ、お前の家に案内してくれるか。家族にも挨拶する」


「うん」


 レギナは歩き出した。


「お前ら、行くぞ」


 ズデンカは軽く指示してレギナを追った。


綺譚おはなし! 綺譚おはなし!」


 すっかり機嫌が良くなったルナも走り出した。その余の連中はまあほどほどな速度で進み始める。バンを降りてから手が離れてしまったジナイーダは独り寂しそうだったが、今は構っている余裕がない。


 そう遠くない場所に農場は存在した。


 やはり、ズデンカの推測は正しかったのだ。


 赤く塗られた柵の向こうではたくさんの牛や豚がいなないている。


「ドロタの家族もいるな」


 ズデンカは呟いた。


「ドロタには家族がいないの……皆死んじゃった。独りなの。あたしも、同じ」

 

レギナの訥々した語り口が返ってズデンカの胸を打った。


「農場には家族と住んでいないのか?」


「本当のお父さんお母さんじゃないんだって……いつもそう言ってる」


 拾い子なのだろう。ズデンカは察した。


「そうか……あたしも家族はいねえよ。お前と同じだな」


 兄ゲオルギエはまだ生きているようだがもう長らく会っていない。捨てたも同然だ。すれ違ったとしても無視するだろう。


「私と同じだ」


 ずっと黙っていたジナイーダも小さく呟いた。


 ジナイーダは本当に天涯孤独で、とある窃盗団にいたが追い出されてしまい、ズデンカと旅するようになった経歴を持っている。


 レギナはジナイーダよりも幼いようだ。吸血鬼ヴルダラクのジナイーダは年を取らないのだが。


 ジナイーダの冷めた瞳と比べれば、まだレギナにはどこか夢を見る余裕が残って居るように思われた。


 室内に案内される。


 意地悪そうな顔をした中年の女が部屋のなかから出てきた。


「何だいあんたらは」


 咎めるような声を出して女は訊く。


「初めまして。わたしはルナ・ペルッツという者です。わたしのメイドが偶然道でレギナさんと知り合いまして」


 ルナは朗らかに自己紹介する。

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