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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十話 女と人形(1)

トゥールーズ人民共和国南部――



 綺譚収集者アンソロジストルナ・ペルッツは生理中だった。


 エルキュールから馬車で旅立ってすぐになったのだ。予想より少々早かった。


 メイド兼従者兼馭者の吸血鬼ヴルダラクズデンカは血の臭いにだけは敏感なので、すぐに察知し、いつも通り世話してやろうとしたが、


「いい。自分でする」


 とルナは幌を被せた馬車の中に閉じ籠もってしまった。


 ヘルキュールでショックなことがあり、もともとルナは不機嫌だったが、さらに一層ふさぎ込んでしまったらしい。


――そろそろ親離れか。


 とズデンカは心の中で思いつつ、馬車を進めた。


 もちろん旅の間に何があっても良いように生理用品は買い貯めてあるが、どの街でも充実している訳ではない。昔ながらのやり方で済ませている地域も多いのだ。


 黒や濃紺色の服が好きなルナは、少しぐらい汚れても大丈夫とは言い張っているが。


「何も手を貸さないで良いのか?」


 ズデンカは後ろに声かけた。


「昔は一人でやってたんだ。他の身の回りのことと同じく、君が手伝い出したから、仕方なく従ってただけで……」


 ルナの不機嫌そうな声が幌から聞こえてきた。


「まあ、あたしも過保護過ぎかもな」


「過保護だよ……。ほんと、しんどい。こんなのなくなってくれたらって思うよ。子供なんて産まないのに」


「じゃあ、吸血鬼になればいいさ」


 ズデンカは珍しく暢気に答えた。


 人間なら伴うあれやこれやからはすべてズデンカは二百年以上前におさらばしていた。正直他人事だったが、ルナが辛いなら少しだけでも肩代わりしてやりたく思った。


「やーだよ。人間の方が面白いもん」


 ルナは子供っぽく答えた。


「じゃあそのままでいな」


 ズデンカは無慈悲に笑った。


 二人はトゥールーズの南側を目指しているのだった。そこから東へ抜けてランドルフィ王国へ入る予定だ。


 オルランドに一度戻ろうとは思うのだが、エルキュールにて取り寄せた新聞によれば、ヒルデガルトで起こった劇作家リヒャルト・フォン・リヒテンシュタットの失踪事件とルナの関係性が話題になっているのでズデンカは迂回を考えたのだ。


 宿は取らず、一気に駆け抜けようと考えているのだが。


「いけるか?」

「うーん」


 ルナはうなった。


「じゃあ、どっかで宿を取るかねえ」


 ズデンカは周りを探した。


「なんか、この近くの家で招待状貰ってた気がするんだけど」


 ルナは聞いた。


「探せよ」

「えーと、えーと」


 幌の中でガサゴソと音がした。


 ルナは怠そうに名刺入れを探っている様子だ。


「あったあった。ヴィルヌーヴ荘」


「貸せ」


 ルナの手袋をした手だけが幌に掛かったカーテンから突き出された。


 単体で見ると意外に細いなとズデンカは思った。


「オクターヴ・ロランか。変な名だな」

「トゥールーズでは珍しくもないよ。君は知らないだろうけど」


 ルナは言った。軽口を叩ける程度には元気らしい。


「じゃあ、そこを頼るか」


 ルナの返事はなかったが、ズデンカは同意と見なして馬を走らせた。

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