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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(21)

 しかし、その刹那。


 フランツの腕が勝手に動き、強力を振るって、グラフツの糸を叩き切っていた。


「ふん。なんやしらんけど、急に動きぃ変わったな」


 グラフツは今度は両手を剣に変化させ、物凄い勢いで斬り掛かってきた。


 しかし、フランツの身体は意志とは関係なく軽やかに跳び、グラフツの物凄い速度の攻撃を全て受けた。


 背中が、焼けるように熱い。


――そうだ。きっと、刺青だ。ファキイルの血を、シャツがいっぱい吸い込んで……。


 フランツはかつて復讐を決意したときに背中に人魚の刺青を刻み込んで貰った。


 たぶん、それが今激しく疼いている。


  犬狼神の血と、何か関係があるのだろうか?


 グラフツの動きが手に取るようにわかる。まるで鈍く、ゆっくりと感じられる。


 腕を切り離しても糸なのですぐ再生する。


「ちっ、これじゃあ埒が開きまへんな! アモスを使わせて貰うわ!」


 グラフスは後方に退避した。フランツは一撃を足に食らわせたが、重心を失って倒れはしないようだ。


 間にアモスの胴体が素早く入り込む。


 フランツは躊躇した。しかし、身体に歯止めは訊かない。


 これまでのようにはいかなかった。やはりアモスの胴体はは神代から存在しているのだ。怒れるファキイルを前にした時のように、恐怖心がフランツを満たした。


 しかし、狂える身体は止まらない。人魚には一体どのような力が込められているのだろうか?


「シュルツさん……無茶ですね」


 メアリーが開いている側からアモスへ打ちかかった。


 反撃を食らう前に即座に退避する。


「でも、私ちゃんは今回、その無茶さに載ってみようと思います」


「何をやる気だ」


「あの腕で一撃を食らえば私もシュルツさんも身体は砕け臓物は飛び散るでしょう。なら遠くから何度も何度も攻撃するしかない」


「だが、あれはファキイルの……」


「そんなこと言ってられますか? あれはただの肉体です。いささか時間が経っているだけに過ぎない。幾ら特殊な強さを持っていようと、単なる肉体なら私は壊し馴れています」


 メアリーはまた蹴りを食らわせて戻った。


「どこかに脆いところがあるはず。動きでこちらが上回るなら、いずれは崩れ落ちるはずです」


「そうかもな」


 メアリーの言葉に勇気づけられて、フランツはアモスに打ちかかった。


 遮二無二に刀を振れば、腐食した皮膚が剥がれつつあることがわかった。


「何時間もやれば、腕ぐらいは切り落とせるかもしれんな」


「引いてくれない以上、戦うしかないでしょうが」


 メアリーは汗を拭った。大分消耗為ているように思える。


 既にグラフスと猛烈な死闘を繰り広げたばかりなのだ。


 新たな鏡もどこから襲い掛かってくるかわからないし、油断はしていられないのに、数時間もすればメアリーはバテてしまうに違いない。


「俺が代わりにやる。お前は休んでろ」


「バカ言わないでください。休めば殺されるじゃないですか」


 メアリーは呆れたように言った。


 後追いの鈍才。


 だと以前メアリーは自分のことを述べていた。


 狂ったように見せてはいても、本当は常識人なのかもしれない。今のメアリーの言葉からは生きるのに必死な、ひた向きな印象をフランツは受けた。


 フランツが考えている間もなく、メアリーはまた胴体へ飛びかかった。


 だが。


 待ち構えていたように俊敏に足首を掴まれ、メアリーは逆さにつり上げられた。


「アホ。何度も同じ手は食うかいな。握りつぶされたらもう歩けんやろ!」

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