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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(19)

「だからどうした!」


 フランツは激怒を押さえられなかった。


 これまでファキイルは何くれとなくフランツを守ってくれた。


 それが、今眼の前でアモスだか何だか知らないが首のない胴体に胸を貫かれている。


 たとえ死なない身体なのだとしてもフランツには耐え難かった。


――絶対に助けないといけない。


 前に進もうとすると、メアリーが間に入った。


「あなたじゃ勝てないです。シュルツさん」



「勝てるか勝てないかじゃない。俺はファキイルを助けたい。あいつは、俺の命の恩人だからだ!」


 フランツは叫んだ。


「まあ、キミがそう思うんは勝手やけど、俺らが知っとるファキイルとは大分話が違うなあ……あいつはな、誰よりも嫉妬深い女なんや。見たことはないけど、見たやつと話したことはある。あっちの世界にはいろいろと送られとるからな。都合の良いところだけ見んのも大概にせえよ」


 グラフスは饒舌だった。


「お前に何がわかる! 俺はファキイルと旅した。あいつのことは詳しく知っている! お前なんかよりもな」


 正直、ファキイルの過去が気にならないと言えば嘘になる。だが、過去など知ったところで何になろう。


 しかも、数千年も昔のことなのだ。


 神話になるような。


 だが、フランツにとって『今の』ファキイルは神話ではない。


 共に旅してきた仲間だ。


「シュルツさん、走って」


 メアリーが耳元で囁いた。


 それで閃いたフランツは無心で走った。もちろん、グラフスの方向ではない。アモスに貫かれたファキイルの方角だ。


 フランツはすぐにファキイルの胴体を引き剥がそうとした。


 だが、なかなか取れない。


「アホやな。そいつは俺の意志の通りに動くんや」


 アモスのもう一つの腕が動いた。フランツの胴を狙って襲い掛かる。


 ゴシッ。


 鈍い音が響いた。


 ファキイルは胴をねじって、もう一つの腕をも受け止めていた。


「ごふっ……フランツ……大丈夫だ……我はこれぐらいでは死なない……死ねるものなら……」


 ファキイルはそこまで言って黙った。 


 フランツはまた泣きそうになっていた。


 「俺はなあ、アホ馬鹿ちゃんなオドラデクとはちゃうねん。糸を多少仕込んでやるとなぁ。動かすことが出来るんや。こんな具合になあ」


 グラフスは操り人形を操るように手を動かした。


 ぶすぶすと、ファキイルの身体に何度もアモスの腕が差し込まれる。


 見ると、ファキイルが先ほど胸に開けられた穴から流れる血は止まっていた。


 死ぬことができないというのは確かなのだろう。


 だが、苦痛は感じるようで、ファキイルは顔を歪めていた。


  今までファキイルが傷付くまで戦ったところは見たことがなかった。フランツは動揺していた。何も戦えない自分が憎らしかった。


「手がすいてますよ!」


 と、メアリーが叫んだ。


 グラフスの両手は斬り落とされていた。


 しかしグラフスはニヤリと笑って、胸部を盛り上がらせたかと思うと、すぐに刃のかたちに変えて、メアリーの心臓を突き刺そうとする。 


 しかし、メアリーはすぐに後退して、ナイフを飛ばす。


 見事グラフスの両目に突き刺さっていた。


――今のうちだ!


 フランツは全身の力を込めて勢いよく二つの腕に突き通されたファキイルの身体を引っ張った。

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