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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(18)

 途端にグラフスの懐から小さな手鏡が空へと浮かび上がる。


 月の光を受けてキラキラと輝き、草むらの上に反射した光が投げかけられた。


「長く俺らのとこにいたようやからなあ。かなりえぐいことになっとるが」


 光のなかから何かが現れた。


 フランツはすぐに見わけることができた。


 胴体。


 人の胴体だ。


 首のない胴体だ。


 筋肉質で、成人男性のものだった。


 しかし。


 その身体は朽ちていた。


 皮膚がところどころ黒く腐敗している。石のように固くなっている。


――何だあれは?


 フランツはとてつもない禍々しさを感じた。こんな思いをするのは、生まれて初めてだ。


「あっ、あれは何なんですか? グラフスさん! ぼく、あんなの知らないですよ! いったい何なんですか!」


「なんやろなあ? なんやろなあ? ほんま、アンタはなんも知らんなあ……でもま、ファキイルはんなら知ってるんやない?」


 グラフスは眼を細めた。


 ファキイルはいつも通り表情を変えていない。


 しかし、長い度の間にファキイルの表情を読み慣れたフランツにとって、そこにはいつにない哀愁がうかがえた。


「……」


 長いこと言葉を発さない。


――何かに、気付いたようだ。


「ほんと無口やなー。どこぞのオドラデクとはえらい違いやわ。でも、まあアンタの最愛の人と逢えたのはよかったんちゃう? そこにいるのはアモスや。その胴体や。わかっとるやろ? あんたがおくったんやからな。もちろん、俺は現場を見たわけやないけどなあ」


 アモス。ファキイルと旅をした存在と言われている。


 詳しくは知らなかったが、おそらくファキイルがこの世の中で一番大事だと考えて射るであろう存在だった。


 神話のなかの存在だ。もう何千年前の話のはずだ。


――なぜ、グラフスはそのことを知っている。


 そして、オドラデクはなぜ知らない?


「ぼっ、ぼくらの世界にそんなものが来ていたなんて!」


 オドラデクは眼に見えて焦っていた。


 だが、焦っているのは『振り』だけだとよくわかっている。


 人間の感情を理解できないから、どこか模倣した態度をとるのだ。


 フランツは疑念を覚えた。


 グラフスとオドラデクがこっそり通じていたらどうだろう。


 いくら親しみやすくみせていたところで、オドラデクは人間ではないのだ。ファキイルをたばっていながら、隠していていてもおかしくはない。


 ファキイルは歩き始めていた。アモスへ近付こうとしたのだ。


 だが。


 ずぶり。


 首のないアモスの胴体は、ファキイルの胸を貫いていた。


「ファキイル!」


 フランツは走り出そうとする。


「まあ待ちなはれ」


 いつの間にか屋根から降りていたグラフスが立ちはだかった。


「騎士道精神ちうのにはちいと欠けるかもしれへんな。でも、神さんなんて怖あて恐あてまともに相手出来ひんもん。死にゃあせんやろうが足止め程度にはなるやろ思てな。俺が人間さんらを残らず鏡の世界に送るのの、な」


「貴様!」


 フランツはグラフスを睨んだ。


「キミ、何て名前やったっけ? ……まあええわ。ファキイルはんのことに怒ってるんやったらお門違いや。アモスはんの首を胴体と切り離して、俺らの世界に送ったんは、何を隠そう、ファキイルはんご本人なんやからな」

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