表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

862/1238

第七十八話 見知らぬ人の鏡(16)

 いくつもに分かれた細い糸は鏡の表面へ一本一本ずつ入り込む。


 すると、たちまち鏡は皆地面へと落下していった。


 もう、二度と動かないし、攻撃してはこない。


「凄いじゃないか!」


 フランツは驚いた。


「えっへん! このぐらい訳もないですよ! 鏡に主人をぼくだと理解させただけですからね!」


 オドラデクはすばやく元の身体に戻り、胸を張った。


「この調子で鏡を停止させながら、ファキイルさんと合流しましょう」


 メアリーが言った。


 オドラデクはメアリーの方を睨み付けたが、またふんと胸を反り返らせて、歩き出した。


 フランツたちもその後に続いた。


 外を探し回ったが、なかなかファキイルは見つからない。


「ファキイルさんなら、まず負けるはずはないと思ったんですが……」


 メアリーは言った。


「家のなかに入っているのかもしれないな」


 フランツがあたりを見回したその時。


 ガチャンと大きな音がして、村の中心部にある教会の屋根の下に設けられたステンドグラスが割れた。


 続いて、塊となった鏡たちが外へ逆流していき、地面へ叩き付けられて粉砕した。


――ファキイルだ。


 フランツは震えた。


 犬狼神の力は単に身体が固いだけではない。あれだけの数のある鏡を一瞬で叩き潰してしまうとは。


「どうやら、ぼくが行く必要はなさそうですね……ちえっ!」


 オドラデクは口惜しそうだった。


 三人は教会と急いだ。


 教壇はひっくり返り、座席は皆破壊されていた。


 ファキイルはその中で立ち尽くしていた。


「ファキイル! 無事だったか?」


「ああ、ニコラスは休憩室に連れていった」


 フランツは急いで休憩室へ走った。


 ニコラスはぐったりとした様子で、ベッドに横たわっていた。


 フランツは声を掛けようと思ったが、意識がないのは傍目からでもわかったので引き返した。


 もちろん部屋の鍵はしっかり閉めておいた。ファキイルは開けたままにしていたからだ。


――眠らせて置こう。起こしたらまた自分を責めるかもしれん。


 また、ニコラスの助けが必要になることがあるかもしれないが、今は求められない。


――オドラデクとファキイルがいれば何とかなるだろう。


 そんなうっすらとした期待を抱いてしまい、フランツは慄然とした。


 自分一人で解決しようとこれまで何度も思ってきた。なのに気を弛めた途端にこう思ってしまうとは。


 フランツは頭を振りながらみんなの元へ戻った。


「幾ら倒しても鏡はまた来ますよ」


 メアリーが遠くを指差した先には、無数の鏡が蛾のように燦めきながら教会を目指して、押し寄せてくる。


「なんであんなに鏡があるんだ。この村にある鏡はほぼ全部潰したはずだ」


 フランツは言った。


「鏡の世界から鏡を連れ出しているんですよ。まあ、無限増殖ですねえ」


 オドラデクが答えた。


「切りがないのか」


 フランツは絶望的な気持ちになる。


「元を絶てばいいんです。鏡を作り出しているやつを倒せば解決ですよ。まあそいつが……やなやつなんですけどね」


 オドラデクは嫌そうに言う。


「誰がやなやつや?」


 訛りのある声が響いてきた。


「ああ、噂をすれば何とやらですかあ」


 オドラデクは教会の外へ飛び出した。フランツも追った。


 教会の屋根の上に小さな人影が乗っていた。月光であるていど姿をうかがうことが出来る。オドラデクのように透き通った色をした髪をしていた。


「しばらく振りやなあ、オドラデク」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ