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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(14)

 鏡の破片が草むらに飛び散り、月の光を浴びている。


 血痕も出来ていた。


 メアリーは袖を捲り上げ、両腕にナイフを握りながら鏡を弾き落としていた。


 相変わらず動きは俊敏だ。


 何度か切り傷の痕を受けてはいたが。


「この鏡、人の顔が映りますね。私のようで、私ではない」


 メアリーは言う。


「そうだ。この鏡に映っているのは見知らぬ他人だ。向こうの世界の俺たちなのかもな」


「それは面白い! 引き摺り込まれるのはごめんですねけどね!」


 そういってメアリーは回し蹴りを放ち、鏡を三つばかり打ち落とした。


 スカートすら捲りあげていたので、フランツは思わず目を背けてしまった。


 ファキイルも早くに飛んできており、応戦している。手を動かさず、一睨みしただけで鏡を割っていた。


――どうも機嫌が悪いようだ。


 フランツはあまり刺激しないように注意を払った。


 しかし、割られても割られても、鏡は物凄い速度で家々の門口から飛び出してきて、メアリーたちにたかってくる。


 オドラデクはやってこない。


――こんなに鏡がやってきているのに……。元の世界に帰りたいんじゃなかったのか? まじでなに考えてるかわからないやつだ。


 とフランツは思った。


 だが、こうしてはいられない。


 剣という手段は封じられたフランツもあまり得意ではない体術で対抗した。


 素手で鏡を割ると痛いため、ワイシャツを破ってグルグルと拳に巻きいてナックル代わりにした。


「少しも減らない……何なんだ、こいつら」


 フランツは額の汗を拭いた。


 夜はまだまだ長い。鏡の群れも尽きない。


「やっぱり、誰か鏡を操っている人がいるのかもしれませんね」


「移動しながら探すぞ。このままじゃ全滅だ」


 ニコラスはボウガンで何個か鏡を撃ち落としてはいたが、あきらかに疲労の色が見えた。


 ニコラスも、ほとんど寝ていないに違いない。それなのに自分だけすやすや寝てしまったことをフランツは恥ずかしく思った。


「ニコラス、大丈夫か?」


「こんなの、大したことない」


「いや、きつそうだが……」


「いや、俺だけ参っているわけにはいかない」


 鏡が凄い勢いで、ニコラスの顔面すれすれまで飛んできた。


「ひっ、ひい」


 怯えたニコラスはボウガンにつがえた鏃で抵抗しようとした。


「危ない……!」


 フランツは間に割って入り、鏡を叩き割った。指の間に血が滲み、シャツの切れ端が紅く染まるのがわかる。 


 ニコラスはさめざめと泣いていた。


「俺……情けないよ……お前らが命をかけて戦ってるのに……へなちょこな矢しか打てない……パウリスカだって助けられない」


「もう、そのことは言うな!」


 フランツは叫んだ。


 過去ばかり振り返っていたは死ぬ。今はそう言う場合だ。


「あそこで手を離さなければ、あんなやつに……ジムプリチウスなんかに……」


「やめろ! それ以上は止めろ」


 と、フランツの首根っこが後ろから引っ掴まれた。


 メアリーだ。


「ファキイルさんは、ミスター・スモレットを守ってください。シュルツさん、走りますよ!」


 フランツの身体は激しく跳躍した。物凄い力で草むらを引き摺られるのがわかる。


 さすが処刑人だ。

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