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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(12)

「今日は適当な家を選んで泊まりましょう」


 メアリーは言った。いとも当たり前のように。


 倫理的にどうなのかと思ったが、オドラデクによると鏡の中に吸い込まれた人々はもう戻ってこないらしい。


「それぐらいならいいな」


 どっと疲労を感じた。よく考えたら、ここ数日あまりよく眠れていないのだ。


 ベッドではなく寝台車や野宿ばかりだったのだから当然だ。


「俺も眠いしな」


 フランツはそう控えめに言って、最初入った屋敷へ移動した。


 二階に上がるとふかふかのベッドがあったので、何も言わず靴を脱いで、布団の上に横たわった。


――何時間かは寝ておこう。


 すぐに眠りに落ちた。


 ふと気がつくと窓の外はすっかり暗くなっていた。


「寝過ぎたか」


 前にも、こう言うことがあった気がする。


 フランツは焦った。鏡が暴走していないか。仲間の誰かが喰われてはいないか。


 特にニコラスは心配だ。あまりにも疲れが溜まり過ぎて、そこまで気を回してられなかった。


「フランツ……」


 窓が開いて、ファキイルが舞い込んできた。


「どうした?」


「右手」


 フランツは驚いて自分の右手を見た。


 と、何か丸いものが食らい付いているではないか。


 鏡だ。


 縁飾りが立派な柊の彫刻で覆われた鏡が、フランツの右手を半ば吸い込んでいたのだ。


 フランツは驚愕した。


 違和感など少しも感じていなかった。右手もちぎれたような感覚も痛みもなくあるかのように見えていた。


――こうやって村の人々を全部吸い込んだのか。


 左手で引き剥がそうとするがとても剥がせない。物凄い力で吸い付いてきた。


「ファキイル!」


 フランツは叫んでいた。


 また、頼ることになってしまった。


 ファキイルは鏡に近付き、まず普通に引き離そうとした。


 しかし、難しいようだ。


「破壊するか」


だが、そしたら右手がなくなってしまうかもしれない。今そんなことになったら、スワスティカを狩ることが出来なくなる。


「オドラデクを呼んできてくれ。生きていればの話だが……他の連中も頼む」


 フランツは寝てしまうというミスを犯した以上、仲間が鏡に喰われてしまっている可能性を考えていた。


 こんなに音もなく近付いて来られるのだから、メアリーすら叶わないかも知れない。


「わかった」


 ファキイルはフランツの側を離れ、窓の外から飛んでいった。


 鏡は少しずつ右手から腕まで侵蝕を初めていた。


――早くしてくれ!


 フランツは冷や汗が流れるのを感じていた。


「フランツさん、フランツさん! やっほおおおお!」


 オドラデクが物凄い駆け足でドタドタと階段を登って部屋に駆け込んできた。


「凄い体験してますね! 鏡に喰われてるなんて!」


 オドラデクは冷やかすように言った。


「剥がし方を教えろ!」


 フランツは叫んだ。


「そうだなー、さっきさんざん言われましたからねえ。このままフランツさんが鏡の世界に行っちゃうのを見るのもオツかも知れませんよ」


 オドラデクはニヤリと笑った。


「俺にはやることがある!」


 フランツは必死になっていた。


「どうぞどうぞ! 吸い込まれてくださいよ! フリーになったぼくは一人旅を楽しみたいと思います!」


 オドラデクは答えた。

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