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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(11)

「やっぱり、ぼくの故郷が見えるなぁ~!」


 なんとも言いようのないにやけた顔立ちになりながらオドラデクは鏡のなかを見詰めていた。


 フランツは近くにあった布で鏡を蔽って壁から引っぺがし、床に叩き付けて割った。


「はっ! なにぉ!」


「全て割っていく。ついてこい」


 オドラデクの手首を引っ掴み、次の家に移った。


「さてさて、捕まえてきましたか」


 メアリーも着いてくる。


「おう」


 印を付けた家に入ってみると、オドラデクは手を振り払って走り出し、鏡をうっとり見詰め始めた。


 メアリーとフランツは協力して、また鏡を叩き割った。吸い込まれないよう、毛布などを被せながら。


「ちょっとおお! 何してくれちゃってるんですかぁ! せっかく故郷に帰れると思ったのにぃ!」


 オドラデクは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「帰るつもりだったのか。それじゃあもうお別れだな」


 フランツは素っ気なく言った。


「いやいやあ! そんなことっ! ないですよ! ちょっと口走っちゃっただけですよ!」


 オドラデクは慌てて訂正する。


「もうお前と会えないと思うと少し寂しいな!」


 フランツは少しふざけて言った。


「ちょっと、ちょっと! 勝手に話を進めないでくださいよぉ……んもぉ……調子狂うなあ……」


「お別れですね。残念ですよ」


 メアリーまで乗ってくる。


「なんだよおぉ! ったくもう! ぼくはかえるつもりなんかないですよ! ったく、わかりましたよぉ! 従えば良いんでしょ、あんた方に!」


 オドラデクは叫んだ。


 これで多少考えを変えたのか、オドラデクは積極的に各家をめぐり、鏡を指で示していった。


 あまりにきびきびとした動きになったのでフランツもメアリーもそれに尾いていくのに苦労した。


効果覿面こうかてきめんだったな」


 別にフランツが意図したわけではないが結果としてオドラデクが従うことになったのはありがたい。


「何だかんだ言ってオドラデクさんはシュルツさんが好きなんですね」


 メアリーはニヤリと微笑んだ。


「まさか、そんなことはないだろうが……」


 フランツは焦った。


「でも長いこと旅を続けてきたんでしょう?」


「長くはない。せいぜい二年ぐらいだな」


「充分な長さですよね」


「そうか? ともかく最初はほとんど話さなかったからな。あっちが勝手にいろいろ話し掛けてくるようになったんだ」


 フランツは過去を思い返した。


 ここ一年ばかりの間で、自分は猟人としてかなり経験を積んだつもりでいた。


 しかし、本当に強い相手を前にしたら、まるで歯が立たなかった。


 無様に逃げ帰ることになった。


 そんな時もオドラデクは常に常に自分の傍にいた。


 鬱陶しく感じることは多かった。


 だが、今となってはいてくれるのが当然となっている。


 故郷に帰られるなどとなったら喪失感は大きいだろう。


 だから、言ったことは嘘ではないのだ。


――それに俺は今、剣がない。あいつに刀身になって貰わなければ戦えないのだ。


フランツは必死に良い訳を考えていた。


五十枚ぐらいの鏡を割った。もうすっかり夕方になっていた。


「ふう……」


フランツは汗だらけになった額をタオルで拭った。

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