表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

852/1240

第七十八話 見知らぬ人の鏡(6)

 メアリーはこう言う時に限って鈍感なのか何も言ってこようとしない。


――揶揄からかわれるのを覚悟したが。


 おかげでフランツは歩みを進めることが出来た。


 足を踏み外しそうになったが、何とか踏み留まる。この程度猟人にとっては大したことがない。


「ニコラス、気を付けろよ」


 フランツは重い荷物を必死に背負って歩くニコラスに言った。


「わかってる。前みたいなことには絶対にならない」


 ニコラスは暗い顔付きをしていた。


 フランツもこれ以上は何も声を掛ける事が出来なかった。


ゴルダヴァ北西部ヌシッチ――


 昼も大分経ってから辿り着いたヌシッチは小さな村落だった。


 一行は遠く離れた高台から、見おろしていた。


「早速、降りてみましょうかねぇ!」


 オドラデクは元気いっぱいだ。


 足をグルグル高速で回転させながら眼にも止まらぬ速さで駈け降りていった。


 こう言う時偵察役としてオドラデクはとても優秀なのだ。


 そして即座にグルグルしながら戻ってきた。


 顔が青ざめ、泡を食っている。


「フランツさん! フランツさん!」


「どうした」


 そのオーバーなリアクションに多少うんざりしながらもフランツは訊いた。


「人がいないんです! 人っ子一人!」


「ちゃんと確かめたのか」


「一戸一戸開けて回りましたよ! 鍵も掛かってない!」


「村ならそういうことはあるだろ。皆で今の時期の祭りに出てるとか」


 フランツはまだ信じなかった。不思議なことは多くあるとは言え、まさか村の住人が一人残らず消えているとは。


 過去にはオドラデクが同出も良いことで大騒ぎをした例が何度かあった。


「全部見ましたよ!」


 オドラデクは必死だった。


「とにかく、行ってみましょうよ。シュルツさん」


 メアリーが擁護した。


 オドラデクは即座に嫌そうな顔になったが、


「まあ、ぼくについてきてください!」


 と言って、また足をグルグル回転させて降りていった。


 フランツ一行も下りの道に注意しながら降りていく。


「さ、ここ、開けてみてくださいよ!」


 オドラデクは一見の扉を指差しながら差し招く。


 フランツはおそるおそる開けた。


 室内はもぬけの殻だった。


 ギー、ギー。


 木で出来た扉が軋る音が響くだけだ。


「たしかに、いないな」


「そうでしょう、そうでしょう! 何か起こったんですよ!」


 オドラデクは自信満々だった。


「起こったとして俺たちには解き明かす義務などない」


 フランツは冷たく言った。だがこれは単なる事実だった。


 目的はヌシッチではなく、そこを越えてヴィトカツイに入国することだ。


 単なる通過点にしか過ぎない場所から、人間がごっそりいなくなっていたとして、なんだと言うのだろう。


「さあ、出るぞ」


 フランツは歩き出した。


「でもぉ、あの家も、この家も、誰もいないんですよぉ!」


「いい機会じゃないですか。必要なものがあれば頂いていけばいい」


 メアリーが眼を細めて辺りを見回していた。


「止めておけ。本当に消えたわけではないかもしれない」


「ぼくの早とちりだって言うんですかぁ!」


 オドラデクはまた怒り始めた。


「そうは言っていない。変に関わってややこしいことにならないように言っている」


「ふんだ! 絶対にぼくが突きとめてやる!」


 オドラデクはまたまた猛ダッシュで家の外へ飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ