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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(5)

メアリーは飽くまで楽しそうだった。


「いや、殺すのは俺で十分だ。……友達の手を汚させたくない」


「ずいぶん友達思いなことで」


「……そんなんじゃない。殺すのは俺やお前みたいな汚れた輩だけで十分だ」


「私ちゃんは別にいいですけど、ご自分をそこまで卑下する必要はないですよ」


「いや、俺は既に穢れている。スワスティカを倒すため、秩序を取り戻すためにあえて汚れたのだ。だが、あいつまで汚れさせて何になる。死後に地獄に落ちるのは俺だけで良い……お前も当然落ちるだろうがな」


「はぁ……お若いですねえ」


 とフランツより年下なメアリーは両手を上に広げて、呆れるポーズをとった。


「ところで、ちょっと気になったことがあります」


 メアリーはいきなり後退して、ニコラスの隣まで歩いていった。


「おい、やめろ」


 このままでは流血沙汰になるかも知れない。フランツも追い掛けようとしたが、


「さっきあなた……ジムプリチウスさんのせいでパウリスカさんと別れたみたいなことを仰っていたじゃないですか。でも、私ちゃんが前にあなたから訊いた話はちょっと違いましたよ。別れた後に遭遇したって言ってたでしょう?」


 とメアリーは話し掛けていた。


 さすがに記憶力もあるようだ。フランツは矛盾点を不思議に思わなかったからだ。


ニコラスは顔を背けていた。


「……」


「おい、メアリー、話を蒸し返すな!」


 フランツはやっと二人の間に割って入った。


「そうだよ……だからどうした! 山の中腹でやつが突然襲撃してきて、パウリスカは滑落して行方不明になった。俺はあいつからの攻撃をかわすので精一杯だった。あの時はオイレンシュピーゲルとかいうやつはいなかったけどな!」


「なるほど。正確な情報のご共有ありがとうございました」


 メアリーはそう言いながらまた先を歩き始めた。


 フランツは並んだ。


「ニコラスは責任を感じているんだ」


「そうですか」


 メアリーは興味がなさそうに答えた。


「まあわからないだろうがな、女にはな!」


 普段フランツはあまりそんな物言いをしない。


 ルナ・ペルッツと長く友人だったことも関係しているだろう。


 むしろ元スワスティカ幹部のグルムバッハの傲岸不遜な生き方に不快感を感じたほどなのだ。


 しかし、メアリーのあまりの素っ気なさに腹が立って思わず口走ってしまったわけだ。


「責任を感じるか感じないかなんて男と女で変わるわけがないでしょう。ま、私は感じませんけどね」


 メアリーは合理的に答えた。


 フランツはもう言い返せなくなった。


 町と町を繋ぐ道路はだんだんわかり辛くなり、雑草が混じり始めた。


 できるだけ人と会わないよう、険しい道ばかり選んで進んでいるのだから自然とそうなる。


 大都市パヴィッチの北西部は実はまだあまり開拓が進んでいない地域になる。


 フランツはキシュには行かず、そこから若干ずれた西側に位置するヌシッチを通過してヴィトカツイ王国へ入ろうと考えていた。


「最近は夜でも暑いですね」


 メアリーは額の汗を拭った。


 それを見てフランツはごく自然とドキリとした。

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