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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十八話 見知らぬ人の鏡(1)

ゴルダヴァ中部都市パヴィッチ西部――

 

 夜は、明けた。


 宿屋を早々に出立したスワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツはあとをノロノロと着いてくるオドラデクを見やった。


「遅い」


「ぜんっぜん寝たりてないんですよぉ! ふぁ~!」


 猫背になり目をしょぼしょぼさせて進むオドラデクだが、当然これは演技だ。オドラデクは睡眠などとりはしないのだ。


 にも関わらずオドラデクは他の誰よりも喜怒哀楽が激しいし、大食いだし面倒くさがり屋で自堕落だ。誰よりも人間が好きだし


 フランツは嫌になる。


 戦闘では助けに回ってくれるので、そのこと自体は感謝しているが、金銭的精神的負担も半端ないので、迷惑にも思っている。


「俺は寝ていない。というか皆寝ていないだろ」


「そうですよ、オドラデクさん」


 珍しくメアリー・ストレイチーがフランツに呼応した。


「クソ女! フランツさんを勝手に横取りするんじゃないですよ!」


 オドラデクは眠気はどこへやら、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


「面白いですね。オドラデクさんは」


 メアリーは笑った。


 一行は既に町の外に出ていた。


 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツたちを追跡する旅をすることになったためだ。


 もともとフランツはルナに話を訊き、スワスティカ残党のビビッシェ・ベーハイムと同一かどうかはっきりさせようとしたのだった。


 もし、事実だとしたら、ルナを殺そうと考えていた。


 確かに、ルナは同一だと白状した。 


 だが、ルナの周りにはフランツがとても太刀打ちできない、やばいやつらばかりだと言うことを知ったため、隙をうかがいながらゆっくり尾行する計画に変えたのだ。


 吸血鬼連中に占拠されてしまったパヴィッチ北部は進めない。


 だから、西部から北の方角へ向けてゆっくりに進むことにした。


「荷物を整えるだけで精一杯だったよ」


 もう一人の猟人ニコラス・スモレットが言った。


 何気にたくさんの荷物を肩に抱えていた。さっきまでフランツたちが持っていたものまで含めて背負っている。


「さすがに多すぎるぞ。やはり俺が分担したほうがいい」


 フランツは焦った。


「いや、いいんだ。昨日の戦いでも俺は支援しかできなかった。ならそれに撤することにしたんだ」


 ニコラスとて決して他に実力が劣ることはないはずだが、それでも実戦経験を豊富に積んだフランツや他の面々と比べれば弱いように感じられてしまうのだろう。


「お前が聖水を投げてくれたから、あの吸血鬼ヴルダラクを足止めできたんだ」


 フランツは言った。


「だが結局殺せなかっただろう? 俺は弱いんだ」


 ニコラスは項垂れた。


――本当に一番弱いのは俺だ。  


フランツは先の戦いでズデンカに怒鳴り付けられ、心底怯える自分を感じた。


 足が竦んで少しも動けなかった。


今まで何度か人間の力を超える化け物や化け物に匹敵する力を持つ人間と戦ってきたが、あれほどの強さを感じる相手に出会ったことがなかった。


――今の俺ではズデンカを殺せない。


 結局はそこに戻ってくる。


 ルナを追跡する旅のなかで倒す方法を探っていくしかなさそうだった。


「さて、シュルツさん」


 メアリーは遠くを見詰めた。


「お楽しみですよ」

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