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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十七話 鷹(8)

「ぐすっ……! なんて感動的なお話なのでしょう。そのようなかたちで実の母親と再会するなんて!」


 カミーユは涙に濡れた目元をハンカチで拭った。しかしすぐ辞めてまたトランプをシャッフルし始めた。


「ええ、ええ! 得がたいお話ですよね!」


 カミーユの突拍子もない行動に呆気にとられていたルナも、急いで手帳を取り出すが、車窓をしばし見やった後で懐のなかに引っこめた。


――自分が集めようと思っていた話を横取りされたんだ。そりゃルナは心中穏やかじゃねえだろうな。


 ズデンカはいい気味に思った。


 しかし。


――カミーユは何かやろうとしている。恐らくはよからぬことだ。


 前までのカミーユなら自分から率先して話を聞き出すことなどなかった。黙っているはずだ。


 それが突然ルナの真似を始めた。


 ズデンカはカミーユの動きを注視することにした。


「ああ、俺もまさかと思ったよ!」


 クシュシュトフは自慢げに叫んだ。


「人生ってそんなこともあるんですねー。私なんかまだまだ浅くって、思いもしなかったなあ!」


 カミーユはやんわりと誉め称えた。このあたりは前の言動を思わせるものがある。しかし、冷ややかな目付きでトランプを繰っていた。


 そのまま会話もなく、車は静かに進んで行く。


 一時間、二時間。


「うーん、ごろごろごろごろ」


 大蟻喰は広いバンのなかを転がり回っていた。


――なんだよ、ちょっと可愛いじゃねえかよ。


 ズデンカは刹那にそう思ってしまった自分を恥じた。


 大蟻喰はルナやズデンカと同じように多くの人間を殺めている。


 断じて許されるような存在ではないのだ。


 もちろん、その言葉はズデンカにもルナにも返ってくる。


 つまりは表に出ず、影に隠れて生きろということだ。


 本人の意向は別として、今後ルナが本を出していけるかどうかわからなかったし、かつてヒルデガルトのホフマンスタールで起こした殺人で容疑者となっているという話も聞いた。


 いくら人から糾弾されても、身は潔白だなどと言い張ることは出来ない。それはルナとて理解しているだろう。


 にも関わらず、大蟻喰は大それた計画を企ているようにも思える。あちこちで人を殺して食い散らかしてきたのは、何か目的があるのではないだろうか?


――こいつの面倒まで見なければならんとは、やれやれ。


 ズデンカは嫌になった。


 他へと目をやった。


 バルトロメウスは何も言わずうつむいている。


 大蟻喰がことを挙げるとなれば、おそらくこいつは味方するだろう。


「そろそろだ。あと三十分もあれば、ジンゲルにつく。あそこなら、汽車もまだ通じているだろう」


 クシュシュトフが大声で言った。まだ機嫌はいいようだ。己の物語を語りきってスッキリしたのだろう。


「ありがとうございます! おかげさまで楽しい旅路を辿ることができました!」


 カミーユは相変わらず元気に言う。


「俺もまさか帰り際に早速話をできる相手が現れるとは思わなかった。実際言葉にしてみるといろいろ話を盛っちまうところもあるが頭は整理されて良いよな!」


「そうですか」


 とカミーユは冷たく言った後で、


「でも、私思うんです。あなたのお話、もう少し面白くできそうな気がするんです。今のままじゃあ、……正直かなりつまらないなって」


ぼそっと呟いた。

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