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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十七話 鷹(5)

 この剥製、まじで立派だろ?


 黄色と黒の瞳、まるで本物のようだ。


 ガラス玉の細工だがな。だが、毛並みは生きていた頃のものを使っている。


 俺はゴルダヴァのアンドリッチから帰ってきたとこなんだが、そこにはえらく尖った屋根を持つ歪んだ家がある。


 持ち込んだ骨董品を売りつける相手を探しにあちこち歩き回っているうちに見付けた。


「どなたかいらっしゃいませんか?」


 玄関のベルを押して、俺は挨拶をした。既にほとんどの品物は売り尽くしてしまい、残っているのは古いオルゴール一つだった。


 とは言え、なかなかの高級品だぜ。トゥールーズの大貴族が名工に特注したものだ。ハンドルを回せば、悲しい音色が聞こえてくる。

これを売りつけようと考えた訳だ。


「何か御用ですか?」


 陰気な顔の老執事が現れた。


「私は旅の骨董商です。オルゴールが今手許にございますが、なにとぞお買い上げくださいませんか?」


 俺は慇懃な態度で、説明した。


「奥さまにお話ししてみましょう。お入りください」


 執事が案内されるまま、俺は応接間へと入った。


 テーブルクロスには埃一つないが、幾つか染みが出来ていた。もう何年もの間使っているようだった。


 家のなかは本当にがらんとしていた。


 やがて控えめな足音が響く。


 扉が開いて真っ白な髪の老婦人が入ってきた。


「お待たせ致しました」


「いかがでしょう。オルゴールを買って頂けませんか?」


「もちろん、無聊ぶりょうの身をかこつ私ですもの。ささやかな音を聞くのはとても心をなだめるのに役立ちますわ。買いましょう。お値段はお幾らですの?」


 老婦人はやけに古風な回りくどい言葉を使った。 


 俺は付けられるだけ高い値段にしてやった。こんな屋敷の持ち主だから、相当の金持ちに違いないと思ったからだ。


「もちろん、それで宜しいですよ」


 老婦人は言った。さっそく執事に命じてお金が持ってこられる。


 まさか小切手じゃなく現金ですぐ支払ってくれるとは思わなかったので、俺は急いで懐へと収めた。


「じゃあ、これで」


 と俺が立ち上がろうとすると、


「骨董屋さん、何卒あなたに引き取って貰いたいものがあるの。お金は払わなくていいわ。とてもいいものなのよ。でも見ると悲しい気持ちになってしまうから……」


 老婦人は言い出した。


「それはありがたい!」


 俺としてはただで商品が手に入るのだから喜ばない訳がない。


「じゃあ、ついてきて頂戴ね」


 老婦人は部屋の外に出る。俺は後に続いた。 長い廊下を通って奥の部屋に行く。


「主人の書斎にあった鷹の剥製よ」


 剥製か。


 俺は考えた。


 ものによればなかなかの値段が付くものだってある。


こんな片田舎では埃にまみれて眠っていても、俺の手にかかれば何万単位の金を稼ぎ出せるかも知れない。


 書斎に通されて出会ったのが、そいつさ。鷹の剥製だ。


「主人は私が書斎に入るといつも寂しそうにこの剥製へ目をやっていたの。それが何を意味するかは私はわからなかった」


「へえ……」


 俺は感心しているばかりだった。


「私たち夫婦には子供が生まれなかったの。だから主人が死んでしまえば、この家にはシュトロハイムと二人きりよ。私もいつ死ぬかわからないし、鷹を見る度に主人を思い出すから、何とかして売ってしまいたかったけど、私は世間知らずでしょう? シュトロハイムに聞いてもよくわからなくて、何ともしようがなかったの」


 シュトロハイムとは老執事の名前だろう。あんたらのようにオルランドかそこいらの名前だよな。

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