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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十七話 鷹(4)

 クシュシュトフの運転は巧みだった。何事もなく車道に戻ると、他の車とぶつかることもなくスムーズに動いていく。


 何年も何年も同じ道程を繰り返してきたかのようだ。


「一晩あれば駅のある町までいけそうな感じだな」


 ズデンカは言った。


 独りだけならいけないことはない。だが六人も一緒にいればそうはかない。


「ズデンカ、本当に大丈夫なの?」


 ジナイーダが小さく言った。


「何かあってもお前には絶対手出しさせねえよ」


「おいおい、ずいぶんな言われようだな。俺はそんな狼じゃねえよ」


 クシュシュトフは運転しながら言った。


「お前はそうじゃないかもしれんが、手を出すのは大体男だしな」


  ズデンカは冷たく言った。


「俺は無理矢理女を犯したことなどないぞ。そんなことをやるのはごく少数だろう」


「少数だろうが男に偏ってるじゃねえかよ」


「まあまあ、二人とも。そんな話しても無駄ですよ」


 ルナがなだめた。


――ちっ、反論してきやがってよ。


 正直、水掛け論になるのはズデンカもわかりきっていた。


 男が悪い女が悪いといった話はいつもそんな感じで終わってしまう。


 相手が考えを改めることは、まずないのだ。同じ考えを持つ者どうしが共感するだけで広がることはない。


「いや、別に俺は怒っちゃいねえがなあ」


 クシュシュトフはそう答えて高らかに口笛を吹いた。


 ズデンカはもうしばらくは一言も言葉を発しないまま、ジナイーダを抱きしめている事にした。


「ところで、クシュシュトフさん!」


 カミーユがいきなり元気よく訊いた。


「なんだい、嬢ちゃん」


 クシュシュトフはカミーユを気に入ったのか、ずいぶんと明るい声で言った。


「あの鷹の剥製凄いですね! 何かそれにまつわる物語とかあるんじゃないですか」


 そう言ってカミーユは懐からトランプを持ち出し、シャッフルし始めた。


――手遊びか?


 ズデンカは奇異に思った。


「そりゃあちょっとした面白い冒険譚がある」


 クシュシュトフは自慢そうに言った。


「ぜひ、訊かせてください。お願いします!」


「ふふふふふっ、カミーユったら冗談が上手いな!」


 ルナは微笑んでいたがズデンカは額に冷や汗が流れているのを見逃さなかった。


 自らのお株が奪われて焦っているのだろう。


――しかし、どうしてこいつは話なんか訊きたいんだ?


 カミーユは物凄いスピードでトランプのシャッフルを繰り返している。


 ズデンカはゴルダヴァへ行く汽車の中でそのトランプで一緒に遊んだことを思い出した。


 良く見るとカードの裏には羊の頭の骨のような柄が描かれている。


 ズデンカはなぜか不吉な予感がした。


「冗談じゃないですよ! 私もルナさんみたく、いろんな人からお話を集めてみたくなってきたんです。だってすばらしいじゃないですか。旅して色んな人たちの人生模様に接せるなんて! サーカスだけが全てだった私は何て狭い世界しか知らなかったんだなあって、感心させられることが多くって! だから今回は私にお話を集めせてください」


「わっ、わかったよ!」


 ルナはハンカチで冷や汗を拭いていた。


「形無しだな」


 ズデンカは揶揄からかった。


 しかし、同時に不安感は強まってきていた。今のカミーユは何を考えていなくても人を殺すことが出来るのだ。


「それじゃ。さっそく訊かせてやろう!」


 クシュシュトフはハンドルを回しながら、自信満々に話し始めた。

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