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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十七話 鷹(3)

「あたしらが連れだ」 


 バンに並んで歩きながらズデンカは言った。


「女ばかりか。そりゃ危険だろう」


「男もいるが重病人でな。あまり構わないでやってくれ……」


 ズデンカは馴れない嘘を吐きながら、バルトロメウスを顎でしゃくった。


「なるほど、構わんぜ。伝染うつらんだろ?」


「ああ、その心配はない」


 男は他の車の邪魔にならないよう路肩に移動してバンを止めた。


 扉が開かれるとカミーユが一番に入った。ズデンカは後を振り返ってルナたちに手で合図しながら、なかに乗り込んだ。


 もし、男が自分たちだけを乗せて先に出発でもしたら、すぐに脅してなんとしても止めさせるつもりだった。


 幸い、そういう心配はなかった。ルナたちも乗り込もうと近付いてくる。


 車内は座席がなく十人ほど乗り込める広さだった。

 だが、車の隅の方にズデンカは黒い影がうずくまっているのを見た。


 ズデンカの眼ならすぐわかった。


 鷹だ。いや、鷹の剥製だ。鋭い目付きでズデンカを睨み付け、今にも飛び立ちそうに見えた。


 なぜ、こんなものが置かれているのかよくわからなかった。


「何だこりゃ」


 思わず声に出してしまう。


「まあちょっとした拾得物だ。俺はクシュシュトフ。名前からわかるがヴィトカツイ生まれのヴィトカツイ育ちよ。骨董品の売買をやっていてな。ゴルダヴァではまだまだ買い手がいるんで全部うっぱらったが、いいものも見付けた。それが鷹だ」


「あたしはズデンカだ。お前さん、ずいぶん見かけとはかけ離れた仕事してるんだな」


 ズデンカは言った。


「そういうあんたは何やってる?」


「見かけ通りのメイドだ」


「メイド? そんなツラには見えんがなあ」


 クシュシュトフは笑った。


「うちのメイドは有能ですよ。何でもやって貰っています。あ、ご挨拶がまだでした。わたしはルナ・ペルッツ」


 ルナが車内に上がり込んできた。


「ああ、『綺譚集アンソロジー』なら俺も読んでるぞ。新刊を待ちわびてるんだが」


「読者の方ですか。それはありがたい。まだちょっと本になるまで時間はかかると思いますが、かならず出ますので宜敷お願いします!」


 ルナはズデンカの隣にどっかりと腰を落ち着けながら言った。 


「立派な剥製ですねえ」


 ルナも鷹に気がついたようだ。


「よっこいしょっと」


 大蟻喰とバルトロメウスも乗ってきた。徳にクシュシュトフとは会話を交わすことなく、バンは静かに出発した。


「駅が通じている場所ならどこで降ろしてくれても良い」


 ズデンカは言った。


 カミーユの思うつぼになったので正直早めにクシュシュトフとはおさらばしたかった。


「いつでも載っていってくれていいぜ。車の一人旅は話相手がいなくってよ」


「いない方がいいだろ。運転の邪魔になる」


 ズデンカはオルランドにいたとき、何度かルナの車の運転をしたことがある。あまり得意ではないので、何度かミスったことがある。


 そんな時もルナはかまわずあれこれ話し掛けてくるので、いつも途中で邪魔されたくないとばかり考えていた。


 一方、クシュシュトフはむしろ話したがっているようだ。


――ずいぶん運転に慣れているんだな。


 ズデンカは感心した。

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