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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十七話 鷹(1)

――ヴィトカツイ王国南端ワイダ



「ズデンカさん、ズデンカさん、ずいぶん長らくお待たせしました」


 背嚢から小さな鼠が這い出してきて、綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツのメイド兼従者兼馭者だが今は徒歩のズデンカの肩へ登った。


 鼠の三賢者、メルキオールだった。


「とうとう、目を覚ましましたよ。カスパールが!」


 以前、背嚢のなかに入れられた悪魔モラクスの首の一部を使って、スワスティカの残党カスパー・ハウザーの心臓に使われていたカスパールを復活させるとかいう話をしていたはずだ。


 それからしばらく音沙汰なかったが、今ここに再び姿を現したと言うわけだろう。


「鬱陶しい」


 ズデンカは顔を顰めた。正直興味はあまりないところだ。


 確かにカスパー・ハウザーと主人のルナは因縁がある。


 だが、カスパールは所詮その心臓代わりだ。どのような経緯でハウザーの心臓となったのか詳しくは知らなかったし、知ったところで何にもならないだろう。


 すっかり夜になっていた。ギリギリで検問を抜けて、ヴィトカツイ王国の南端へ入り込んだ途端にメルキオールが現れ出たのだ。


「面白そうな話してるね」


 好奇心旺盛なルナはさっそく耳を動かしながら近付いて来た。


――耳まで動かせるのかよ。ほんと人間離れしてやがるな。


「カスパールさんとはまだ会ったことがない! ぜひ、面識を持ちたいよ。いや、わたしは鼠は苦手だけど、旅のなかで話せる鼠にはお世話になってきたからね」


 ルナは帽子を障りながら、恥ずかしそうにしていた。


 自分の苦手なものをさらけ出すのはさすがに決まりが悪いのだろうか。


「いまはダメだ。どこか泊まる場所をさがさねえと」


 ズデンカは厳しく言った。


 ワイダはヴィトカツイ南部では比較的大きな都市だ。夜になっても人の行き来は絶えず、ズデンカたちの前にも後ろにも誰かが必ずいた。


「えー!」


 ルナは不満そうだ。


「お前のことだ、また話が訊けるかも知れないと考えたんだろ?」


「すごい! よくわかったね」


 ルナは驚いた。


「わからない方がどうかしてるぜ」


 ズデンカは呆れた。 


「じゃあさっそくホテルでも頼んでカスパールさんの綺譚おはなしを!」


「ズデンカ、私、まだ歩けるよ。ペルッツなんか放って置いて先を目指そうよ!」


 ジナイーダの瞳は輝きを帯びている。転化から日数が経って、吸血鬼の身体に馴染んできたのだろう。


「それもそうだな。これぐらいでへこたれんな。一夜歩き通せば明日には中部に出られる。駅も復旧してるかもしれん」


 ズデンカはジナイーダに同意した。


 意識して同意した。


 これまでルナの発言ばかり聞き入れてジナイーダを独りぼっちにしていることが多かったように思ったからだ。


「そんなあ。もうクタクタだよー!」 


 ルナは子供みたいにわめいた。


 「それはお前に体力がないだけだ。前も似たようなこと言った覚えあるぞ? い加減鍛えたらどうだ?」


「嫌だよーだ。今さら鍛えたってろくなことにならないよ。中部に行くんならヒッチハイクでもすれば良いし、歩いていく必要なんかない」


「それもそうでしょうね。こほん……ズデンカさんはともかく、私たち人間は時間が限られてますからね」


ナイフ投げのカミーユ・ボレルがなぜだかルナの肩を持った。


――ったくもう、またややこしいことになりそうだ。


 ズデンカは焦った。

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