第七十六話 夏の葬列(14)
「意外な真相が判明! ってことはないみたいだね。なんかつまらないなあ……」
ルナは呟いた。
「村の噂でもボシュコだということで話はまとまっています。証拠は何も見当たりませんけどね」
ダルコが冷ややかに言った。ボシュコは相当村のなかで嫌われ者だったらしい様子が伝わってくる。
「そう訊くとかえって犯人ではないって場合もありそうに思えるなあ」
「わかりませんよ。そもそも死体が見つかったのも何日も経ってからでした。発見されたのがゾフィアの自殺の三日前というだけの話です。自殺なのか病気なのか、わかりやしない。相当腐爛していました。職場にももう長いこと出勤していませんでした。それでも誰にも気にされなかったんですよ……お嬢さん方もいらっしゃるのに、こんな話をするのはいささか気が引けますが」
ダルコは額の汗を拭きながら言った。
「やっぱりボシュコさんが犯人で決まりだね。これで事件は解決したかな」
ジナイーダが見上げた空は驚くばかりの茜色に変わっていた。
日が暮れるのがそろそろ早くなり始めたのだ。
――クソ、今日中にキシュを出るのは難しそうだな。
ズデンカは焦った。
「戻ってきたね」
とルナ。
確かに一行は墓石を眼の前にしていた。ゾフィアの名前が刻まれていた。
「ボシュコさんはどこだろう?」
ジナイーダが既に探しに行っていた。
広い墓域のあちこちを歩き回ってボシュコ一家の墓を探している。
ズデンカも手伝おうかと歩き出した途端、
「あったよー!」
ジナイーダが遠くで手を振っている。
ズデンカは近付いた。
ボシュコの名前が刻まれた簡素な墓石が確かにそこにはあった。
「これがやっとでした……ボシュコの残していた全財産を使いました。相続人は誰もいなかったので街のものになったのです」
ダルコが説明する。
「待ってよお……はあはあ、ぜいはあ」
ルナが息切れを起こしながら走ってきた。
「だらしねえ奴だ」
ズデンカは腕を組んだ。
「お前の力でなんとか呼び出せないか?」
「だから、わたしは死者を蘇らせるなんてできないのさ。霊を見た人の記憶を実体化することならできるけど」
確か以前ランドルフィでそういうことがあった。ルナの能力は何でもありのように見えて意外に制限がある。
「もう解決はしないだろうな。みんな戻るぞ!」
また仕切ってしまう自分をズデンカは恥じた大人数での行動だとついつい表に出過ぎて、声を荒げる機会が多い。
協調性のない連中の集団だと自然とズデンカがリーダーのようになってしまう。
「待ってください、ズデンカさん」
リンとした声が響いたかと思うと、カミーユ・ボレルが折りたたまれた一枚の紙を指の間に挟んで風に靡かせながらこちらまで歩いてきた。
「なんだよ、それは」
「ゾフィアさんの遺書です。気になるでしょう? 家の人たち、誰も気付いてなかったみたいですよ。ちょっとかわいそうですよね」
ゾフィアが隠した殺人鬼のカミーユの人格は目敏く見つけ出したのだ。
「ブラヴォ! カミーユ、お手柄だよ! これで死の謎がわかりそうだ!」
ルナは手を叩いた。




