第七十六話 夏の葬列(13)
「ええと……ゾフィアさんはボシュコさんの後を追って死んだように見えるけど、実はそうじゃないんじゃないって思ったよ」
ジナイーダは言った。
「ああ、あたしもそう考えていた。逆にゾフィアがボシュコを殺した可能性はどうだろう?」
デヤンはただボシュコは死んだと言っていただけで、詳しいことは語らなかった。
後ろにいるダルコに聞けば詳しい死因はわかるかもしれないが、自殺あるいはそれに見える不自然な死に方だったのではないだろうか。
ズデンカは大人を相手にするように、本当に答えを欲していた。
「偶然……じゃないのかな。単に私の意見だけど。ボシュコさんは……うーん言っていいかわからないけど、人から……女性から好かれるタイプじゃない印象がした」
「だろうな。ボシュコの死をゾフィアが知らなかった可能性もある」
「いや、それはないですよ」
ズデンカの声を聞きつけてダルコが、近付いて来た。
「ゾフィアにボシュコの死を伝えたのは私ですから。もうその時点で会話は困難になっていましたので、親に話しただけですけどね」
「でも、なら、本当に伝わってるかどうかはわからないよね」
ジナイーダは対抗するかのように言った。
「それは……そうですが」
「親心から考えると、顔を失って表に出れない娘にそんな話を伝えるのかって点は気になりますよね」
くるりと反転したルナが物凄い速さで近付いて来た。
「だよね。揉み消したんじゃないかって思う」
さすがにジナイーダもここはルナが自分と同意見で合わせてきたので、さっきまでの対立姿勢を表には出さなかった。
こう言うところはさすがに子供っぽい。
「それは……そうですが」
ダルコはあからさまに顔を歪めていた。
田舎は年功序列で物事が決まるようなところがある。
老人に年端もいかない女が反論するようなことはほとんど起こり得ないのだ。
――よほど腹に据えかねてやがるな。ざまあみやがれ。
ズデンカは内心で嘲笑った。
ダルコが犯人である可能性も考えてみた。確かに女を無意識に見下しているダルコならばゾフィアにそのようなことを遣っても罪悪感はさほど覚えないだろうと思われた。
何歳になろうが若い女に執着する男は多いものだが、ダルコもそうなのかも知れない。さすがに親戚の若い女に手を出したりしたら田舎でも評判が大きく落ちると思われるので、犯人の候補に入れていいか微妙ではあったが……。
とても眼の前で二人と話し合うわけにもいかないので、ズデンカは決して口外しないようにした。
もし、ダルコがルナやジナイーダに危害を加えるようなことをしてきた場合は、すぐに殺してでも解決しようと決意したが。
「そう言えば、犯人がゾフィアさんに硫酸をかけようとした動機って考えられてた? 私はきっと美しい顔のゾフィアさんを自分だけのものにしようとしたんじゃないかなって思うんだ」
ジナイーダが話を変えた。
「あたしもそう思う。他に理由なんて思い付きそうもない」
ズデンカが同意したので、ジナイーダの機嫌はさらに良くなった。
ジナイーダは幼い頃から盗みや人を騙すことをさせられてきたが、あまり得意ではなかった。でも、多くの物事を見てきてはいるため、ズデンカと通じる部分もあるのだろう。
「なら、そういうことをしそうな犯人はやっぱり……ボシュコさん、になるよね」
「そうだな」
ズデンカは頷いた。




