第七十六話 夏の葬列(12)
「じゃあ何だ? 犯人はボシュコとかいうやつなのか?」
ズデンカはイライラした。
「それはわからないよ。確かめる術もないだろうね。被害者も容疑者も亡くなっているならなおさらだ」
ルナは残念そうに言った。
「お前の能力は……そうか……目撃者がいなけりゃ再現は不可能か」
「見ていたなら例え動物でもできるんだけどね。犯行は室内だったようだから、まず期待できない。三年も前だと当時いた虫が生きている可能性はまずないから。ちょっと試してみたんだけど、無理だった」
「既に試したのかよ」
ズデンカは苦笑した。
「以前の蜘蛛さんみたいなことにはならなかったようだ。残念」
「お前の能力でもだめだとすると、どうしようもないな」
「とりあえず、ボシュコさんのご家族が残っているならぜひ話をうかがって……」
と言いかけるルナを、
「それは無理だ。ボシュコに両親はいない。兄弟もだ。やつはガラス工場で働いていた」
デヤンは遮った。
「うーん、どうしようもないなあ」
ルナは首を捻った。
「とりあえずボシュコの家にいこう」
ズデンカは言った。
――こういう時は現場に急ぐに限る。
「やつの家は解体された。死んですぐだった。親の代から住んでたから、ボロボロだったし、誰も買い手が付きそうになかったからな」
デヤンが言った。
「何も痕跡が残らねえじゃねえか」
「まあ取り合えず二人のお墓を確認しに行ってみます。わたしとメイドで」
ルナは言った。
「いやだ。私も行く!」
ジナイーダがズデンカの手を強く握った。
「じゃあ、ジナイーダも一緒で」
ルナは楽しそうな顔で言った。
「あ、その前にこいつを被っていけ」
ズデンカはジナイーダの頭に麦藁帽子を被せた。パヴィッチで貰ったものだ。
「……」
だがジナイーダは礼もいわずにズデンカとそしてルナを睨み続けていた。
三人で家を出て歩き始めた。
ルナはズデンカの少し先に進んでいた。もう何もわからないことは端から見ても確実なのに、まだ手掛かりが獲られると思っているのだろうか。
「なあ」
ズデンカはジナイーダに訊いた。
「……」
ジナイーダは冷ややかな顔で遠くを見詰めていた。
「お前はこの事件どう思う?」
――あたしは何てことを! ……こいつはまだ子供なんだぞ。
ズデンカは口を滑らせたことに後悔した。
でも、ジナイーダはすこし唇を綻ばせていた。
なぜだかズデンカにはよくわからなかった。
「事件って言われても、私は詳しく分析出来る訳じゃないけど。でも、いろんなところを回っていろんな人を見てきたからわかることもあるよ……訊きたい?」
妙に食い気味な態度でズデンカも気付いた。ジナイーダはきっと自分を子供扱いではなく、大人としてみて欲しいのだ。
なのにズデンカはずっと子供扱いしてきた。それはズデンカがジナイーダを吸血鬼にしたという責任感に起因する態度だった。
だが、それは本当にジナイーダを考えてのことだったのだろうか。
――あたしは自分の気持ちを押しつけていたのかもしれない。
実際、ジナイーダの瞳は輝き始めている。
――思ったより、こいつは大人なのかもしれない。そして一つの吸血鬼としてあたしが好きなのかも知れない。
「訊かせてくれ。何でもいい。少しでも気になったことがあれば」




