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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十五話 月ぞ悪魔(10)

「人と喋るようになってあなたは変わりましたか?」


 メアリーは質問した。そこはフランツも訊きたいところだった。


「変わったと言えばあの頃からかなり変わったが、変わらないと言われれば変わらない気もする」


 はなはだ心許ない答えだった。


「まあお喋りなお前は想像できないな」


 フランツは言った。


 ファキイルは何も答えなかった。


「月はいったいなぜ話さなくなったんでしょうね」


 メアリーは不思議そうに言った。


「よくはわからない。だが、輝きは昔より増したようだった」


「少し推理してしまいますと、戻ってきた月は前の月つまり悪魔とは別の何かだった、というのはどうでしょう?」


「ルナみたいだな。やつはとにかく何でも推理ごっこが大好きだ。謎のある話を見付けると自分で解いてみようとしていたな」


 フランツは思い出しながら言った。


「何を見てもミス・ペルッツを思い出すんですね」


 メアリーは笑った。敬称ミスを付けたのはどういう意図からだろうか。


「いや、そう言う訳では……」


 フランツは口ごもった。


 ルナなら、謎を解き明かすだろう。さらに『幻解』でその悪魔を実体化させるかもしれない。好奇心旺盛な性格がそうさせずにはいられないのだ。


 しかし、メアリーはそんなことはしないようだった。


 ただ掌の上で謎を転がすようにして愛でるようにして楽しむ感じだ。


「答えなんか出さなくてもいいんですよ。実際答えがわかるはずがない。ファキイルさんも知りたくないでしょう」


「知りたい。我はいつでも友達と逢いたい」


 ファキイルは短く答えた。無表情な犬狼神にしては心のこもった言葉だった。

 いや。


 ファキイルはずっと、誰に対しても、真っ直ぐに接してきたのかも知れない。


 フランツのことも大昔の悪魔と同じように友達だと思って、旅の間いろいろ助けてくれたのではないだろうか。


「じゃあ、今の月に呼びかけてみては? 悪魔になって戻ってくるかも知れませんよ」


「うむ。そうだな」


 ファキイルは頷いて月を見上げた。


 何も言葉を発さなかったが、しばらく長い間視線を月から外さなかった。


「答えない」


 そしてぽつりと呟いた。


「数万年ないし数千年前と同じですか」


 メアリーは言った。


「答えないが……でも、あの月は友達の悪魔のような気がする。なつかしさのようなものを感じるのだ」


「なつかしさか。友達と逢ったときのような感じなんだろうな」


 フランツは知らず知らずのうちに言葉を漏らしていた。


「そうだ。フランツもわかるか」


「ああ、何となくは。もちろん、お前とは過ごしてきた時間は全然違うので、話にはならないと思うが」


「そんなことない。フランツも友達だ」


 答えになっていない答え。


 でも、フランツの心は温まった。


「よかったですね。シュルツさん」


 メアリーは言った。笑みは顔から消えていた。だからと言って冷たい顔でもなく、まるでファキイルの無表情が伝染うつったかのようだった。


「答えは出るはずもないですねえ」


 オドラデクはつまらなそうに言った。


「答えなんて出なくても良いだろ。それを俺たちは列車のなかで知ったじゃないか」


 フランツは言った。


「あーはいはい」


 オドラデクは白けた顔をしてそっぽを向いた。

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