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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十五話 月ぞ悪魔(7)

「確かにそうだが、お前にすら叶わなかった相手に俺が叶う訳がない。訓練ではいつもお前は俺より成績が良かった」


「訓練と実践は違う。実際ニコラスが聖水を投げた手並みは見事だった。お前の支援がなければズデンカの足止めすらできなかったはずだ」


「そんなことない……俺はそれしかできなかった」


 ニコラスは落ち込んでいるようだった。


「ついて行ってくれるな? ニコラス」


 フランツは念を押した。


「ああ……」


 ニコラスは浮かない顔で同意した。


「さてさて、決まり決まりぃ」


 オドラデクが手を叩いて歩き出した。


「ルナたちは出発したか?」


 フランツは訊いた。


「ええと、カミーユと合流できないまま北へ移動中です。さきにヴルダラクのズデンカは吸血鬼の血盟集団『ラ・グズラ』に加っています。そのため選挙されている北部へ移動も困難ではないのでしょう」


 オドラデクは自分の頭を指差しながらぶつぶつと続けた。


 北部が閉鎖されている話はフランツも途中耳に挟んだ。


 そのためパヴィッチへは迂回して西部から入り込んだかたちだった。


 しかし。


――吸血鬼の血盟集団だと?


 そんなものは初耳だった。しかもズデンカはそこに名を連ねたというのだ。どういう事態なのかよく飲み込めなかった。


「ズデンカは吸血鬼に捕まった街の人たちの命を助ける条件と交換というかたちで仲間に加わったようですね。血盟集団と言っても常にまとまって動いている訳ではなく、血が欲しい場合だけ一緒に動くみたいですね。ともかく今回は『ラ・グズラ』がカスパー・ハウザーと組んで起こした事件です」


「スワスティカの仲間なのか……やつらも……!」


 フランツはオドラデクを睨んだ。


「ぼくを睨まないでくださいよ! 基本的に吸血鬼の連中って自分勝手なんですよ。血が吸いたい。それだけが行動理念なんですから当然です。ちゃんとした集団を形作れるほど意識は高くない。スワスティカ残党連中にも血が飲みたいから、共に動くことをしたという訳でしょう」


「協力したも同じだ。倒さなければならない」


 フランツは頑なに言い張った。


「待ってくださいよ。フランツさんはズデンカ一人にすら勝てないじゃないですか。ズデンカみたいなのがウヨウヨいるのに相手できると思うんですか? ぼくだって嫌ですよ。ファキイルさんなら何とかなるでしょうけど……」


――俺は本当に役立たずだな。


 フランツは自分を恥じた。フランツは現状では吸血鬼に勝つことが出来ない。である以上、神の如きファキイルに全て頼ってしまうことになる。


――逃げるしかない。


 再び西部から迂回してパヴィッチを出て、ルナ一行を追う。少し遅れて、勝機をうかがいながら。


 自分のやっていることがつくづくいやらしいとフランツは思った。


 ルナは確かに元スワスティカだ。猟人としてそれを追うのは正しい。


 でも、フランツは本当にルナを殺す気があるのだろうか?


 フランツははっきりそうだとは言えなくなっている。


 ただ、付かず離れずルナの傍にいたいだけではないのか?


 せっかく決意したのにまた迷ってしまいそうだった。


「さーて、夜になるまでじっくり待ちますか」


 メアリーは路上にあぐらを掻き、大きく伸びをした。

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