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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十五話 月ぞ悪魔(3)

「そうですね。でも、ルナ・ペルッツには戦闘を続ける意志はないようです。カミーユもいない以上、ここは一旦引いて態勢を……」


 メアリーは冷静になっていた。あくまで目的はカミーユの探索であり、他のものには興味がないようだ。


「せっかくルナと逢えたんだ! ここで引けるかよ!」


 フランツはなお収まらなかった。


「でもいま抜け出しても勝てませんよ」


 メアリーは、呆然としたまま佇んでいるニコラス・スモレットを見上げながら答えた。


「今のままでは、何も対抗手段がない。聖水でズデンカを無力化しようにも、血で防がれてしまうし……」


「貸せ!」


 フランツはニコラスから聖水の瓶をひったくると、鞘から抜き放った『薔薇王』へ振りかけた。


「おらあああっ!」


 フランツは力一杯叫びを上げて楯となっているファキイルを越えてズデンカへと斬り掛かった。


 ズデンカは跳躍して、それを簡単にかわしてしまう。


「動きが遅いぜ、小僧」


 その顔に馬鹿にするような笑みが浮かんでいるのを見てとると、フランツは逆上した。


 何度も、何度も斬る。横に斬る。縦に斬る。水平に斬る。


 いずれも、空振りだ。


 フランツの動きは全て見切られていた。ズデンカはその先に行っていた。


 ズデンカは素手で『薔薇王』の刃先を掴む。 


「こんなもん!」


 物凄い力が掛かった。フランツは戸惑って柄を離してしまった。


 ズデンカの掌からは煙が上がっていた。身体が焦げているのだ。にも関わらず、吸血鬼ヴルダラクは剣を放そうとしない。


 刀身にヒビが入った。『薔薇王』は粉々に砕けてしまった。


「そんな……」


 フランツの全身の血の気が引いた。フランツはガクリと地面に項垂れてしまった。


「おい、小僧」


 ズデンカに襟首を掴まれた。フランツは難無く持ち上げられてしまった。


 あれだけ鍛えたのに、身動きすら出来ない。吸血鬼の眼光に貫かれて、フランツは何も言い返すことが出来なくなっていた。


「ルナに近付くな。あたしに勝てると一瞬でも思ったりしてねえだろうな? お前の首なんぞ簡単にへし折れるんだぞ」


 恐怖。


 今まで戦ってきた相手がまるで餓鬼の使いのように見えるほどズデンカは強い。フランツは怖くて怖くてたまらなくなった。


「ファキイルからずいぶん睨まれちまったな。殺す気はねえよ。あまりにも調子に乗っていたからつい腹が立ってな」


 ズデンカは乱暴に襟首から手を離した。


 どさり。


 フランツは尻餅を突いた。


 しばし、呆然とフランツはズデンカを見上げていた。


「あ……あ……」


「言葉もろくに喋れねえのかよ。とんだ小僧だな」


「やれやれ」


 オドラデクがこちらに歩いてくる。


 フランツは担ぎ上げられた。


「結局尻ぬぐいはぼくなんですよね。えと、ズデンカさんでしたっけ」


 オドラデクはズデンカを向いて言った。ちゃんと名前を知っているはずだ。あえて覚えていないふりをしているのだろう。


「フランツさんはこう見えてぼくらの大切なリーダーなんですよ。変に殺しちゃったりしたら容赦しないので。殺しても再生するなら何度も何度も殺し尽くしますよ。ファキイルさんも同じ意見でしょうけど」


「お前……」


 フランツは眼に涙が溜まっていることに気付いた。

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