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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十五話 月ぞ悪魔(2)

「君の家族を殺してしまったことは幾ら謝っても謝ったことにならない。ムルナウにいたことは怯えているけど、その記憶すらないからだ。でも、わたしはまだ殺されたくないんだ。やるべきことはまだまだたくさん残っている。それが済んだら殺されても構わないよ」


 ルナは静かにフランツを見詰め返した。


 フランツはその顔を見てしばらくぼうっとしていた。


 久しぶりに見るルナの顔はとても美しかった。


 言葉が、なかなか出て来ない。


「俺はスワスティカ猟人ハンターだ。お前をここで見逃す訳にはいかない」


 なんとか絞り出したのは決まりきったよくある内容でしかなかった。


「おい、ちょっとキミ? ルナを食べるって先約をしてるのはボクだけどぉ?」


 初めてみる妙な格好をした髪を刈り込んだ少年のような――少女、大蟻喰がフランツを睨みながら言った。


 口調こそふざけてはいるが、凄い気魄が感じられる。


「そうだったね。ステラとも約束してた。これじゃ困るな」


 ルナが笑った。


「先にこいつを食べちゃえばそんな約束はなくなるよ!」


 大蟻喰は垂らしたよだれを手の甲でぬぐった。


「止めて! フランツとわたしは友達だ……今もそうでありたいと願い続けている。ステラも友達だよ。だから二人が殺し合ったらわたしが悲しい」


 ルナは言った。


「俺は……俺は怒りの鉾先をどこに向けたらいいんだよ!」


 フランツは叫んでいた。


「わたしに向ければいいよ。わたしが全部悪いんだ。思い出していれば、君に早く告げられたのに……こんなに遅くになってしまった」


 フランツはもう何も言い返せなかった。地面に膝を突く。


「シュルツさんも私ちゃんと似たようなものですよね。目的を達したいのに、達することができない。さまざまな理由で阻まれる」


 メアリーがフランツの肩に軽く手を置いた。


「いや、お前とは違う。俺はルナを殺したくない。なのに殺さなければならない、今までやってきたことを変えられない」


 フランツはつい本音を漏らしていた。だが小さな声で遠くのルナには聞こえないようにした。


「殺したいんでしょ? 自分だけのものにしたいんでしょ? わかりますよ」


 メアリーは囁いた。


「馬鹿言え。そんなことをしても無意味だ。殺したらもう二度と逢えない」


「そうですね、はあ」


 メアリーはため息を吐いた。軽口を叩くのは内心の動揺を鎮めたいためだとフランツにはわかっていた。


 メアリーの手の震えはまだ、収まっていない。


「そう言えばカミーユはどこへ行ったんだ?」


 通行人を無惨にも殺害し、その血で染まっていたカミーユ・ボレルはいつの間にか姿を消していた。


 あれほどまでファキイルに対して敵意を剝き出した眼を向けていたのに、だ。


 どうもそれはルナの到来と関わりがあるようだ。


「あいつは何かルナに隠していることがあるんじゃないのか?」


 またも小声で言う。


「本当の人格を見せていないんでしょう。隠しておくことで、何らかの旨味をえて置きたいから、と妥算が働いたのかもしれません」


 メアリーは答えた。


「ちょっと二人とも余計なこと話し込んじゃって! 今はどうやってこの危機的状況を潜りぬけるか、じゃないですか!」


 オドラデクが顔を顰めた。

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