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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(10)

「神だろうが何だろうが」


 大蟻喰がいきなりジャンプして、ファキイルの巨体に蹴りを食らわせた。


 しかし、犬狼神はびくともしない。


「ボクには関係ない。この世を滅ぼす反救世主にとってはね」


 距離を取って大蟻喰は着地する。


 しかし、その足は潰れたトマトのように血だらけになっていた。


――ただ、弾き返しただけでこれだ。


「大蟻喰!」


 ズデンカは思わず叫んでいた。


「大丈夫さ……これくらい」


 足はすぐに修復されていった。大蟻喰もズデンカと同じように撃たれ強いが、それは無限ではない。吸収してきたたくさんの人肉を消費して足をかたち作っているだけなので、限りがある。


 しかも大蟻喰は先日カスパー・ハウザーの手下であるヨゼフィーネ・シュティフターによって、肉を奪われている。これ以上ダメージを受けると修復は難しいかも知れない。


「あたしが戦う」


 ズデンカは走っていった。


「ズデ公に遅れはとらないよ」


 大蟻喰はファキイルに向き直った。


「ファキイル、あんたはあのアモスと友人なのか?」


「そうだ」


 ファキイルは短く答えた。


「なら、なんでそんなやつのために戦う」


「そんな奴?」


「フランツ・シュルツだ。そいつはあたしの主人を殺そうとしている。まず、逢おうとしている。だが殺そうとしているやつに主人を逢わせられるか? あたしは主人を大事に思っている。これらも生きて欲しいと思っている。お前にはアモスという友人がいただろ? 少しは気持ちをわかってくれ」


 もはや力では勝つことは出来ない。ズデンカは情に訴えることにした。


――わたしと君はアモスとファキイルに似ているね。


 ルナはちょっと前にそう言っていた。当時ズデンカはは少し引いたほどだったが、今となっては乗っかる意外に方法はなさそうだ。


「フランツは我の友達だ。守りたい」


「あたしは別にフランツとやらに敵意はない。退いてくれ。それだけが望みだ。今ルナは複雑な状態にある」


「言いたいように言ってくれるが」


 フランツが口を挟んだ。ファキイルの影からこちらをうかがっている。激しい戦闘を見せ付けられて、若干臆したと見える。


 吸血鬼のズデンカはもちろん、大蟻喰も普通の存在ではない。


 更にいえばカミーユやメアリーの戦い方も、尋常のものではなく、フランツにとっては刺激的なものだったのだろう。


――ケッ、格好付けてやがるがまだまだガキだな。


 少なからず場数を踏んで来ていると思われたのだが、ずいぶんと情けなく見えた。


「ルナはビビッシェ・ベーハイムじゃない。そのことは何度も言っただろ?」


「だから、そのことを訊くためにここに来たんだ。ルナから、直接」


「お前に逢わせたくはない」


「なぜだ」


「ルナは逢えるような状態じゃない。何度も言ってるだろ!」


 ズデンカは叫んだ。


 その時。


 向こうから跫音がした。


 ルナが歩いてきた。しずかに、踏みしめるようにこちらに向かって。


「もういいよ、ズデンカ」


――こんな時だけ、名前で呼びやがるんだな。


 ズデンカは項垂れた。


――お終いだ。


「フランツ、ほんとうに久しぶりだね。ああ、君の推測通りさ。わたしは、ビビッシェ・ベーハイムだった。記憶こそないけど、君の家族を殺したのはわたしだよ」


 ルナはフランツの目を見詰めて穏やかな口調で言った。

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