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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(9)

「カミーユ!」


 メアリーは痛みに一瞬片頬を歪めて、ナイフから身体を引き離した。


 カミーユは無言のまま、カミーユの喉を切り裂こうとする。


 血を滴らせながらもメアリーはしなやかに駈け回る。しかし、その攻撃は一つとしてカミーユにあたることはなかった。


「ああそうだ、あなたはいつも私より強かった……今も何一つ変わってない……」


 メアリーは痛みをこらえながら恍惚とした表情になっていた。


「そうかな。私は強いとかそんなのは同出もいいよ。どれだけ殺せるかにしか関心がない。そして全然殺し足りてないんだよ」


 カミーユは近くで恐怖により身動き取れなくなっていた通行人を蹴り上げ、血に引き倒すと頭蓋を足で踏みつけた。


 そのまま遺骸を片腕で抱えて持ってメアリーの攻撃を防いだ。


「メアリーじゃ、こんなことはできないよね。幾ら切り刻んでも代わりはいるんだから、こんなに都合の良い楯は他にないよ」


 ズデンカは今のカミーユの人格が旅先でこっそり悪さをしでかしていたのではないかと気になり始めた。


――あたしの知らないところでこっそり殺していたりしないだろうな。


 ズデンカも四六時中カミーユと一緒にいた訳ではない。離れたときも幾度かあったと記憶している。


 今までは、カミーユを独りにしていてむしろ酷い目に遭わないか心配していたのが、逆になった。


 生まれながらの人殺し。


 カミーユは処刑人の血を継ぐ者にふさわしく、技術と躊躇わず殺せる思考を持ち合わせていたのだ。


  陥没させた頭蓋から流れる血を全身に浴びてカミーユは笑っていた。


 メアリーすら少しタジタジとなったのか身を引いている。


「もういい加減に、終わらせたいな。ここで死んで、メアリー!」


 カミーユがスカートごと足を振り上げると無数のナイフがメアリーへ向けて過たず飛んでいった。


 だが。


  固い毛並みがそれを全て受け止めていた。


 巨大な犬――いや狼のような生き物が突然現れて、メアリーの前に立ちはだかっていたのだ。


「ファキイル!」


 フランツは叫んでいた。


 ――あいつは何もしてこねえ。きっとさほどは強くないんだろうな。


 ズデンカはその様子を眺めて考えた。


 だが次の瞬間、驚愕の事態と直面していることに気付きびっくりした。


――ファキイルだと?


 神話のなかの存在。神によって作られた獣、犬狼神。 


 しかし、あのふさふさとした毛並みに神々しい雰囲気はまさしく神代から存在し続けてきたものだけがまとえるものがあった。


「メアリーはお前の仲間だろう。だから助けた」


 ファキイルはフランツと話していた。


――まさか……そんな存在がフランツ・シュルツに味方しているとは……。


 ズデンカは闇に生きる吸血鬼のサガとして、神には強い恐怖を感じる。たとえ、始祖ピョートルの力をえた現在ですら、怖いものは怖い。


――勝てる訳がない。


 たとえ、殺しの天才のカミーユであっても。


――だが……怯えている訳にはいかない。あたしには守りたいものがあるんだ。


 カミーユがあのような一面を持っていたからと言って、仲間であることを否定できる訳がない。


 ズデンカは前に身を乗り出した。


「何だかよくわからないけど、メアリーを守るなら容赦しないよ」


 カミーユはファキイルを睨み付けていた。さすがに強大な存在ということは肌でわかるのか、全身から敵意を滲み出している。

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