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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(8)

 ズデンカの脚力なら多少の距離は何のことはない。一分も経たずに元いた場所ヘと引き返した。


 ルナたちのほうも突然走り出したズデンカに何事かを感じたのか、元の場所にいたままだった。


「ルナ! これ以上は進むな。向こうにフランツ・シュルツがいる!」


 きょとんとするルナを前にズデンカは叫んだ。


「面白そうだ。ボクにらせてよ」


大蟻喰が駈け出した。


「わたしもいかないと」


 ルナが歩き出そうとした。


「止めておけ。お前が絡むとややこしいことになる」


「せっかくフランツが来ているのに挨拶もなしはダメだよ!」


 ルナは聞き入れない。


「お前はスワスティカの残党だ。狙われているんだぞ!」


 ズデンカはハッキリ言った。それは事実であり否定できることではない。


「でも……」


 ルナは項垂れた。


――せっかく元気になったのにまた暗くさせてしまった。


 ズデンカは心のなかで詫びた。


「しばらく待ってろ、あたしが話を付けてくるからな。ジナも一緒にいろ!」


「あ、愛称で呼んでくれた!」


 ジナイーダは顔を輝かせた。


 ズデンカはその肩を叩いた。


「しばらくの辛抱だからな」


 ズデンカはまた後ろを向いて駈け出した。


 カミーユは薄ら笑みを浮かべたまま、何発も何発も銃弾を撃ち込んでいた。


 その度に長い髪の持ち主が弾き返している。


「これじゃあ埒が開きませんねえ。オドラデクさん」


 メアリーの発言から伺うにオドラデクという名前なのだろう。


「わかってますよ。だからあなたが攻撃しなさい!」


 オドラデクはわめいた。


「いやですよ。カミーユに当たってしまうじゃないですか。私ちゃんはカミーユを連れ帰りたいんです。殺したい訳ではない」


 メアリーは飽くまで強情に言い張った。


――どうやら向こうも一枚岩ではないらしい。


 ズデンカは冷静になって判断した。


「おうおう、勝手に行ってくれちゃってるけど、キミたちにはルナは合わせない。ここで死ねよ」


 大蟻喰が飛び出していた。


「こいつが大蟻喰ですかねえ」


 オドラデクがその前に飛び出し、両手で組み付いた。


「その程度でボクを押さえられると思うなよ」


 大蟻喰はオドラデクの腹を引き裂いた。


 しかし。


 オドラデクの身体はキラキラと光る糸に代わり、オドラデクが体内に突き込んだ腕を切断した。


「ふん」


 大蟻喰は切れた腕を引き抜くと、切断された箇所へ向ける。肉片は空へ飛び上がり、元の場所へ付着した。瞬く間に元通りになる。さすがにちぎれたフードだけは直らなかったが。


「再生しますかぁ! ならグルグル巻きにしてやる!」


 オドラデクは髪の糸を相手に纏い尽かせた。


「こんなもの!」


 大蟻喰は全身を揺さぶるが、なかなか引き剥がせない。


 メアリーの弾は、やがて尽きたようだ。すると銃を放り捨ててナイフを持ち、メアリーに斬り掛かる。


「さっさと消えてよ」


 口とは裏腹に満面の笑みを見せ、戦うことの喜びを感じているかのようなカミーユ。


「絶対にカミーユをジャンヌのもとへと連れていく! 逃がしはしない!」


「ふふふふふ、しつこいね。あなたも私も」


 カミーユのナイフが、メアリーの肩を抉った。


 鮮血が飛び散る。

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