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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(7)

 すこしも身動き出来なかった。無理にやろうとすると煙が強く上がり、続けていれば足が消えていきそうな気がした。


 手も聖水が撒かれた範囲の外へ伸ばそうとすれば壁で阻まれたようになる。


――五体を引き千切ってでも出てやるよ。


 と、いきなり鋭く輝くものがメアリー・ストレイチーの胸元へ飛んでいった。


 貫いたと見えたが、メアリーは肘で受け止めていた。


 ナイフだ。


「私は嬉しいよ」


 傷を受けたのにもかかわらず、メアリーの表情は輝いている。


 どこからやってきたのか、ズデンカすら捉えきれなかった速度でカミーユ・ボレルがメアリーの至近まで移動して、ナイフで喉を切り開こうとしていた。


 メアリーもそれに応じて身をかわし、ナイフをカミーユに誘うとする。


 しかし、それは受け止められた。


 刃鳴りがする。


「あなたには会いたくなかったんだけど」


 カミーユは表情を変えずに言った。


「私は逢いたかった。カミーユは戻って処刑人になるべきなんだよ! 私の憧れで、唯一絶対の殺人の天才は!」


 二人は見つめ合っていた。メアリーは感動に打ち震えているのか、眼の縁に涙まで溜まっている。


「処刑人なんてつまらないよ。なんで決められた人しか殺しちゃいけないの? 私はあちこちを旅して、たくさんの殺しをしたかったんだよ」


 カミーユはきょとんとした顔になって言っていた。


 ルナはまだ来なかったが、ズデンカは今のカミーユをルナに見せたくなかった。


「ジャンヌもカミーユを待ってるよ。もし、カミーユが独りじゃ心細いなら私も助けてあげる。私ね、たくさん人が殺せるようになったんだ。カミーユみたいになりたいとずっと思ってた。だから……」


 カミーユはその手を払いのけ、ぴょんと跳んでズデンカの隣に着地した。


「カミーユ、この聖水を何とか出来ないか?」


 ズデンカはいつものような感じで言ってみた。なぜ、そんなことをしたか自分でもよくわからない。どこか、心にまだ仲間だと思う気持ちが残っていたのだろうか。


「私に頼らないでくださいよ」


 カミーユは素っ気なかった。


「とは言え、聖水は穢れたもの――、たとえば吸血鬼の血には弱いと聞きます。一点でも孔が開けば、もしかしたら、そこから脱出は出来そうですけどね」

 さすが処刑人を継ぐべく育てられた人間だ。回りくどいながらに答えてくれた。


 ズデンカは何も言わず手首を噛みちぎって聖水に血を滴らせた。


 薄く煙が上がった。


 しかし、路面に輪を描いた聖水は血でだんだんと濁っていき、ズデンカが思いきって外へ出ても、何も起こらなかった。


「カミーユ、ありがとう。助かった。あたしはルナのところにいく」


「どうぞご随意に。私だけでも何とかなりますよ」


カミーユはズデンカと顔を合わさず、フランツ一行を見やって言った。


「五人ですかぁ……もっと多くても良かったのに」


カミーユは服の袖に手をやってルナから貰った銃を取りだした。


 軽やかに何発も撃つ。


 と、一行の一人が髪の毛を長く伸ばしてひと塊にし、楯のように弾をはじき飛ばした。


 長く見ていたかったが、ズデンカは走り出すことにした。 


 ルナが心配だったからだ。

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