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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(6)

 パヴィッチ南部での兵乱は終結したと新聞には書かれていた。


 ゲリラ軍の完全闘争で幕を閉じたようだ。南部で暮らしていた人たちも徐々に元の家に帰り始めているようで、人混みは昨日よりは大分少なくなっていた。


 ルナたちは市場の方に向かっているのだろう。何か買うつもりなのだろうか。


「あんまり先へ行くな、敵は近付いてきているぞ」


 フランツ一行はもちろん、スワスティカの残党ジムプリチウスもルナを狙っている。よく理由はわからないが、危険なことは間違いない。


 本当は早くパヴィッチを離れたいのだ。大蟻喰も治癒したようだし、記憶を弄られ、ルナを鬼と恐れるアグニシュカやエルヴィラと再び見えてもややこしいことになるだけだ。


 ここに残っている必要性を感じない。


「ほんと、お腹空いちゃってさあ! 非常食がパンちょっとだけしかないとか、ほんと気の効かないメイドだよ!」


 ルナの悪口が聞こえる。


――あたしはそもそも喰う習慣がないんでな。


 ズデンカは苦笑して受け入れた。


 と、次の瞬間、何かが向こうから近付いてくる気配がした。


 動物的な直感だ。ズデンカはルナ立ちより前の方へ駆け出していた。


 何者かが、ルナたちに向かって、歩いてきている。


――フランツ・シュルツだ。


 四人、いや、五人にいる。独り知らない顔がいた。 


 カミーユの友人だったというメアリーはこちらに気付いているようだった。


 だが、悠々と構えて、ナイフを投げて来ない。


「フランツ・シュルツ!」


 ズデンカは怒鳴っていた。


「近付いてくるな。これ以上ルナに関わる前にお前を殺してやる!」


 全身に沸き上がる敵意と殺意。


 フランツもやっと気付いたらしく剣を抜き放った。


「待て! 俺はルナと話をしたいだけだ!」


 フランツの表情には若干怯む姿勢が見えていた。


「話なんざねえ! お前はどうせルナを殺したいだけだ!」


 ズデンカは腕を振るった。フランツは後退する。


「話次第だ! ルナがベーハイムじゃないことがわかりさえすれば、それで俺はいいんだ!」


 フランツの声色にも必死の様子が覗えた。


「お前にそれを明かす必要はどこにある? 早く帰れ!」


 今のズデンカがその気になればフランツなど数秒で息の根を止められるが、そうすればルナが悲しむのではないかと考えて出来なかった。


 出来る限り間合いをとり、フランツ一行がこれ以上進めないよう注意を払った。


 だが、その時。


 ガチャン。


 何かが割れる音がした。


「なんだ?」


 ズデンカは一歩踏み出そうとした。途端に物凄い力でそれが引き戻された。


 足をよく見れば煙を上げている。


――これは聖水か。


「お見事です。ミスター・スモレット」


 メアリー・ストレイチーが手を叩いた。


「ちゃんと吸血鬼ヴルダラクの周りを囲うように聖水が撒かれている。さすが、スワスティカ猟人ハンター


――猟人がもう一人いるのか?


 前会った時はいなかった者が猟人だったのか。


「さて、それじゃあ、われわれはゆっくりとルナ・ペルッツを殺しに行きましょうか。ほぼ想定通りです。ここまで突っ走ってきてくれるとは思いませんでしたが」


――クソッ。罠にはめられたか。


 ズデンカは絶望した。

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