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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(5)

――出かける前にいろいろやらなくちゃいけないことがある。


 ズデンカはルナから離れて下に降り、店員にジナイーダのいる部屋を訊き出した。 


 急いで二階へ引き返す。


「ズデンカ!」


 ドアを開けるとぱっとジナイーダは飛びついてきた。勢い抱き合うかたちとなる。


「ヴィトルド……例の男に何もされなかったか?」


 ズデンカは訊く。これまでさんざんこき使って置いて警戒を解かないのは傲慢だと思ったが、過去の経験が自然と首をもたげてしまう。


「うん、部屋に送ってくれた後すぐ出ていったよ……大きくて怖かったけど」


「そうか……」


 ズデンカはジナイーダを連れたまま、ルツィドール・バッソンピエールも探した。


 ルナたちが眠っていたところから少し離れた部屋でルツィドールはまだ意識はなく昏々とベッドに横たわったまま、眠っている。


 傷は誰かが治療したのか、包帯をあちこちに巻いていた。


――ヴィトルドか? ずいぶん気が効くんだな。あるいは医者を呼んだのかも知れない。


 とりあえず脱走される心配ななさそうなのでズデンカは扉を閉めた。


――さてと、やっと出発できる。


「今から出かけるがお前はどうする」


 ズデンカはジナイーダに訊いた。


「もちろん、ズデンカに尾いていくよ。こんなところにいてもつまらないし、寂しいだけだし……」


 長く独りぼっちの時間を強いられてジナイーダの顔は暗かった。


――お前は、これから相当長い間独りの時間を過ごすことになるんだぞ。


 ズデンカは責任感を覚えながら、同時に吸血鬼という存在の悲しい宿命を思った。


「もー、勝手に言っちゃってー、お腹また空いてきたよ!」


 ルナはプンプンしていた。


「すまんすまん。ジナイーダを探さないといけないからな」


「お前こそなんだよ、ズデンカを独り締めにして!」


 ジナイーダはルナを睨み付けた。いろいろゴタゴタが続いて会話がなかったが、二人の間はまだぎくしゃくしている。


「わたしは別に独り締めなんかしてないよ」


 ルナは微笑んだ。


「してるよ、結果的にしても!」


 ジナイーダも少しはルナとズデンカの間柄がわかってきたようだった。


「そうかなあ」


 ルナは首を傾げる。


「ルナ、行くよ」


 大蟻喰は言い争いは意に返さず、階段を降り始めた。


「はぁい!」


 ルナがドタドタと尾いていく。


 バルトロメウスはなぜだか出て来なかった。


 理由を聞き出したくとも、大蟻喰はルナと並んで先のほうを歩いている。


――まあ、朝だとやつはお荷物だしな。いない方がいいのだが。


 なにか、ひっかかるものがあった。


 パヴィッチの町は再び活気を取り戻している。


 民は強い。


 先の大戦でもゴルダヴァで何度も反スワスティカのテロが行われ建物が多く破壊されたが、復興はまたたくまに行われたとズデンカは色々な本や新聞から知っていた。


「ズデンカ、暑い」


 ジナイーダはしんどそうだった。成り立ての吸血鬼には太陽光はこたえるのかも知れない。


 ズデンカは背嚢から麦わら帽子を取り出して、ジナイーダの頭に被せた。いぜん工場で貰った品物だ。


「これで大丈夫か?」


「うん、ありがとう。すこし、楽になった」


 それでもジナイーダはフラフラするので、ズデンカは手を繋いでやった。


「耐え切れなくなったら言えよ」


 ズデンカは前の方を見やりながら言った。ルナと大蟻喰は仲良く先を歩いている。

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