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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(4)

「君がそんな挨拶をすることは珍しいね」


 ルナがからかった。


「カミーユは出ていったぞ。朝の散歩だとよ」


 また、ズデンカはルナに嘘を吐いた。どれだけ嘘を重ねるのだろう。ひとつ嘘を吐けばそれを守るためにまた吐かなければならなくなり、さらに嘘に嘘が積もっていく。


 いつしか嘘塗れになってしまうのだ。


 ズデンカはその段階に自分が追い込まれているとわかってもなお、ルナに全てを明かすことが出来ないでいた。


――絶対にルナは苦しむ。自分のせいにする。


 ルナの善悪感は必ずしも一般人と同じではないにしても、かつて多くの人間を殺めたという苦しみに耐えず襲われているに違いない。 その上、さらにカミーユの件まで重なれば、ルナはおかしくなってしまうかも知れない。


 ズデンカは絶対にそれを避けなければならなかった。


「お腹空いたー。食べるものないの?」


「パンがある。カミーユは先に食ったぞ」


 ズデンカもトーストを作った。毒が仕込まれていないか注意しながら。


 それほどまでカミーユを信じられなくなっていることが内心ショックだった。


「むしゃむしゃくちゃくちゃくちゃ」


 ルナは食欲に突き動かされるまま、トーストを数秒で平らげた。


「汚ねえ、綺麗に食べろ」


「ふぁーい」


 ルナはもう食べ終わっていた。


「これだけじゃ足りないよ!」


「もうない、どうしてもと言うなら外へ行け――だが、近くにしろよ。フランツ・シュルツらと遭遇するかもしれない」


「いいじゃないか。フランツなら話し合えば何とかなるよ」


 とは言え、ルナは元々暢気な性格だ。ぐっすり眠ってとりあえず腹に物を入れたこともあって、楽観的になるのも仕方ない。


「ならねえ。やつはスワスティカ猟人ハンターだ。連中がどれほど執念深くスワスティカの残党を追っているか知ってるのか?」


「へえ、君は詳しいのか。いつのまに学んだんだい?」


 ズデンカは腹が立ったが押さえた。


「お前と旅していれば調べるさ。新聞は隅から隅まで読んでる。フランツは既に何人も残党を殺したようだぞ。あのグルムバッハも……」


 ズデンカは口を滑らせたと思ったが後の祭りだった。


「そっか……彼は優しい人だったね」


「記憶はないんじゃないのか?」


――虐殺者に優しいも何もないだろ。


 と続けようとしてズデンカは黙った。それはもっと過去にルナを引き戻す。


「ちょっとづつ思い出してるんだ……」


 ルナは項垂れた。


 結局ルナには過去が付いて回る。だからルナは世界の果てまで綺譚おはなしを求めて旅を続けるのかも知れない。


「あたしも一緒に行ってやるよ」


「ありがたい! 準備するよ!」


 結局その準備もズデンカが全部した。そのまま寝ていたフロックコートはぐちゃぐちゃになったので、脱がせて新しい物を着せてやる。


「ふんふん♪」


 新品の服になったルナは足どりも軽く宿の外へと歩き出した。


「やあ」


 大蟻喰が出てきて挨拶した。


「いいのか?」


「もうすっかり元通りさ。ルナも外出だろ。ボクもご一緒させて頂くよ」


 ズデンカは嫌な予感がした。おそらく一緒にいるバルトロメウスがどこかで人肉を調達してきたのだ。やつは大蟻喰のためならそれぐらいするだろう。


「ステラも尾いていってくれるとは幸先良いね!」


 ルナは朗らかに言った。


 ズデンカは嫌だったが、いつ何が起こるかわからない現状では大蟻喰がいたほうがいいと合理的に判断するしかなかった。

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