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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十四話 あなたも私も(3)

 元の部屋に戻ると、カミーユはすっかり眠っていた。


――こいつらが起きるまでは一緒にいないと。


 ズデンカは椅子をベッドの横まで引き寄せて坐った。


 二人の寝息すらも聞こえないほどなので、ズデンカは心配になった。


 ルナの額に手を置いてみる。


「ちっ、ちめいたいよぉ! むにゃむにゃああ」


 ルナは寝言を呟いた。ズデンカは自分とルナの身体の違いを改めて痛感する。


 カミーユの額を触るのはさすがに躊躇した。怒らせてルナに危害を加えられたら大変だ。


――これまでずっと一緒に旅をしてきたのに。どうしてこんなことになっちまったんだ。


 カミーユがずっと自分の偽り通してきたのだから、それはいずれ露顕するのが必定だ。


 いや、ルナたちと旅してきたカミーユの人格は偽っているつもりなどないのかも知れない。


『世渡りが上手い』


 もう一つの人格は優しく穏やかなズデンカ立ちも知るカミーユのことをそう形容した。


――そうか。あいつも利用されてたんだな。


 ズデンカはとても悲しい気持ちになった。利用したもされたもカミーユはカミーユで一人の人間だ。


 今残酷な面を知ったからと言ってそう簡単にズデンカは態度を変えられないし、変えたくもなかった。


 夜は明けた。あっという間に。


 ズデンカは闇の中でじっとしていても苦に感じない。ほとんどそうやって二百年間暮らしてきたと言ってもいいぐらいだ。


 朝が過ぎ去るのをズデンカはじっと待った。


「さて」


 カミーユがぱちりと眼を開けて寝床から見を起こした。


「朝食にしましょうか……ズデンカさんは……あ、要らないですよね?」


 からかうような微笑みがその口に浮かんでいた。


 どうやら二つの人格は情報を共有しているようだ。


――いや、そうではない。あたしが知っているカミーユは自分が人殺しを重ねてきたなど耐えられないだろう。


 本来のカミーユは作り出した人格の記憶を知ることができるが逆はできない。そう考えた方が普通だ。


 自前でトーストを作り、かじり付くカミーユ。


「あー、美味しい」


 食べ方はいつもと少しも変わりなかった。


「ところで、メアリーは絶対に今日中に私の元へ来ます。ズデンカさんの腕にまとわり付いているその髪が証拠です」


 カミーユは突然意味のわからないことを言い始めた。


「何だと」


 ズデンカは腕を見た。


 よく目を凝らせば透き通った輝きを放つ髪が一本、肘の周りに巻かれているではないか。


 ズデンカは急いで髪を引き抜いた。とても鋭利で、指が切れたがすぐにふさがった。


「ズデンカさんあなたは甘いです」


 カミーユは言った。


「どうすりゃいいんだ」


「ぶつかるしかないでしょう。その上で生き延びる術を考えなければなりません」


「これ以上、他の奴らを死なせたくねえ」


「だから甘いんですよ。ズデンカさんは。使える命なら、たくさんあるじゃないですか。あなたが一番守りたいのはルナさんでしょう? なら何人でも捨て石になさい」


「そんなことが出来る訳ねえじゃねえかよ!」


 ズデンカは叫んだ。


「あ、そうですか。なら私は勝手にやらせて貰いますね」


 トーストを食べ終えたカミーユは部屋を勝手に出ていった。


 後を追うか迷ったが、ズデンカはルナの様子を見ていたかった。


「ふにゃあ! よく寝たあ!」


 ルナは昼頃になってやっと目覚めた。


「おはよう」


 ズデンカは素っ気なく言った。

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