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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九話 人魚の沈黙(4)

 ヴェルハーレンは連なる山々から風がそのまま吹き付けてくるため、とても寒い村だった。


 フランツは降りる前に食堂車でコーヒー三杯を飲み、眠気を払っていた。


 しかし、その眼の周りには既に隈が出来ている。


 あくびすらも押し殺しながらフランツは歩き続けた。


 オドラデクは再び鞘の中に収まっていた。


「正直言って警戒されるでしょうね。あなたが一人でこんな村に入っても」

 くぐもった声ではある。だが滑舌はよくなめらかに聞こえた。


「一気に仕留めて帰る」


「でもグルムバッハってやつ、名前変えてるんでしょう?」


 オドラデクは昨日の書類に書いてあった情報をちゃんと読んでいるらしい。

 グルムバッハはラファエル・ケッセルと変名し、生粋のトゥールーズ人になりすましている。


 何でも私塾を開き、えらく繁盛しているそうだ。


 シエラレオーネの猟人本部が派遣した潜入者の調査力にはフランツも呆れた。ならば当人が殺せばいいではないかと思ったりする。


 とは言うものの、フランツの実力でなければ確実に仕留められないと判断したのだろう。ある意味では誇らしかった。


「家を一軒一軒当たっていく訳にもいかないでしょうし、どうします?」

「子供に聞いてみる」


 フランツは眠そうに言った。


「グルムバッハは私塾で子供たちを教えている訳ですから、そういう手もありますよね。でも、どうやって接触するんです?」

「昼になれば連中も遊ぶだろ」


「なるほど、頭が回りますね」


 オドラデクの褒め言葉など意に介さず、フランツは村の近くの林の中に身を潜めて待った。


 鳥の鳴き声がたまに聞こえてくる他はとても静かな空間だ。


 何も言わず立ち尽くすフランツ。


 会話する気すら感じられなかったせいか、オドラデクの声は聞こえなくなった。


 昼近くなると、子供たちの姿が現れた。


 皆元気よく、野原を駆け回っていた。


 そのうちに縄跳びをして遊び始めた。


「よっ、お前ら!」


 フランツは気さくな年長の友達とでも言ったように声を掛けた。


「よっ!」


 何人かは見知らぬフランツに尻込みして恐がり、話し掛けるのを躊躇っていたが、ガキ大将と見える活発な子が答えた。


「俺は旅の者だ。ある人を訪ねてきたんだ。ラファエル・ケッセルという先生でね」

「ケッセル先生は村一番の先生だぜ!」


 ガキ大将が叫んだ。


「へえ、そんなに評判が良いのか」


 フランツは驚いた。


「俺らはみーんな教えて貰っているからなあ」

「ケッセル先生に教えて貰って字も書けるようになったし!」


 舌足らずな話をまとめみると、ケッセルことグルムバッハは親のいない村の浮浪児たちにも無償で文字を教えているという。


 それだけではなく、村会議などにも進んで参加して発言を多くしているということだ。もっとも子供の言うことなので「むらのだいじなあつまり」程度の言葉から意味を斟酌したのだが。


 ケッセルが学校兼住宅として使っている古い屋敷の場所を聞き出すことが出来た。

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