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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十三話 飛ぶ男(10)

「そうでしょうそうでしょう。わたしの推測はあたったのです。パチパチ」


 ルナは手を叩いた。


「なら、飛ぶ男はヨハネスだったということで決まり?」


 大蟻喰が訊いた。


「いや、ほんとかどうかはわからないよ。少なくともわたしの作り出した幻想はそう述べたということさ。はたしてこれはバルトロメウスさんにとって救済でしょうか? それとも地獄に落ちるに等しいことでしょうか?」


「どちらでもないよ。父が空を飛びたいと思っていたなんて露知らなかったからね」


 バルトロメウスは答えた。


「じゃあヨハネスさんは殺されたのではなく、生きていて、今もどこかにいるかも知れない、と言うことになりますね」


「だろうね。だとしても会いたくはないな。今の姿を見られてもね」


「興味深いのはあなたと同じようにヨハネスさんが現実を逃避したいと考えていたことですよ。牧師の職も何もかも投げ出してね」


 ルナはピンと指を立てた。


「単に過去の悪行をネタに強請られて、行き場がなくなって空を飛んだだけのことだろう。どうやって飛んだのかはよくわからないけどな」


「わたしと同じように幻想を実体化させる方法を知っていたのかもしれない。実際スワスティカはわたしの能力を薄めて似た能力を部下に授けることに成功していましたからね」


「父はスワスティカとは関わりはなかったけどね」


 バルトロメウスは明確に否定した。


「何のことを話しているんだ? スワスティカか、そう言えばそんな政党があった気がするが」


 アデルベルトは首を傾げた。


「二十年前基準だと話を合わせるのが大変ですね。ありがとうございました。アデルベルトさん」


 ルナが指を鳴らすとアデルベルトの身体はあっという間に煙へと戻り、やがて薄くなって消えていった。


「まだ話したいことはありましたか?」


「いいえ。とくには」


 バルトロメウスは少し解せないような顔付きをしていた。


「殺される前のアデルベルトの幻影じゃあ、何もわからねえだろうな」


 ずっと黙っていたズデンカは初めて口を開いた。


「事件にいたるまでのことはもっと訊けたかもしれないね。でも、バルトロメウスさん的にはそこはあまり関心がないでしょう? 飛ぶ男はアデルベルトさんではなかった。そこさえわかればよかったわけで。でも注意して頂きたいのはあれはあくまでわたしが作り出したものだということです。本当のアデルベルトさんは飛ぶ男だったのかも知れないし、ヨハネスさんは殺されていた可能性だってある」


「わかってるよ。でも、少し胸のつかえは下りた。ありがとう」


 バルトロメウスは礼をした。


「では、これを持って願いを叶えたと言うことでよろしいですね。あ、事後説明のようになってしまいますが、綺譚おはなしを提供してくださった方の願いを一つ叶えて差し上げるという建前で旅をして回っているのです」


 ルナは立て板に水のごとく説明した。


「もちろん。ペルッツさんがいなかったらまだ何年かはこのことをしきりに思い返していたことだろうね。もちろん、最終的には謎は残っている訳だけど、それはそれとして」


「ボクもつい引き込まれてしまったよ」


 大蟻喰はバルトロメウスに目配せを送っていた。


――思わせぶりな奴だな。


 ズデンカは腹が立った。

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