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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十二話 もう昔のこと、過ぎたこと(10)

「お前は殺しを手伝ったのか?」


 フランツは言った。


「いえ、結局手伝えませんでした。単なる見届け役としてその場にいただけです。今でこそできるようにはなりましたが、あそこまで嬉嬉としてはできません。カミーユはその意味では、まさに人殺しの天才でした。私はその天才に憧れているだけです」


 メアリーの声にまたわずかに感情が現れたような気がした。


「どういう風に殺したんだ? 母親もとりあえず処刑人の家だろ?」


 ニコラスもさすがに関心を持ったらしく質問した。


「もともと母親は落ちこぼれでしたからね。だから早くに駈け落ちしたのです。でも多少心得があってもまさか実の娘に殺されるとは思わないでしょうね。でも、この社会を広く見渡せば、そんなことはありふれていますが」


 メアリーは微笑んだ。


「道の真ん中で殺した、と言っていたよな?」


「ええ。雨がシトシトと降る日でした。祖母の元にいたカミーユが親に迎えられる日でした。石畳の道を三人で歩いていました。カミーユは赤いレインコートを着ていましたよ。人のいない路地に入り込んだときに、叫び声も上げず二人は倒れこんでいたのです。私は路地の奥の方に立ったままでそれを眺めていました。最初、何が起こったかよく分かりませんでした。カミーユは表情を変えないまま、跳躍して二人の喉を掻き裂いていたのです」


「お前は殺されなかったのか?」


 フランツはからかうように言った。後で少し酷かったかと考え直したが、メアリーは構う様子もなく、


「ええ。友達でしたから。カミーユはその後は大通りに出て泣き叫ぶ演技をしましたよ。私は全身の血が引くのを感じながら、その場にじっとしたままでした。結局通り魔の犯行ということになりました」


「まあわかった。それから後はどうなったんだ?」


 フランツは先ほどのズデンカとメアリーの会話からその概要は知っていた。だが、親を殺したカミーユがどうなったかは訊いていなかった。


「祖母――ジャンヌ・ボレルに元に引き取られました。とても目敏い人です。何かが怪しいと勘付いたでしょう。でも、カミーユの才能に目を付けていたジャンヌからすれば、願ったり叶ったりの状況でしょう。その日から処刑人としての厳しい訓練が始まりました。ところがカミーユは難なく全てこなしてしまいます。まるでスポンジに水が吸い込まれるように」


「お前はその後どうなった?」


「もちろん、ジャンヌからは多少教えを受けました。でも本国に帰されて、ストレイチー家で学ぶべきだと言われました。カミーユは大反対しましたが、ジャンヌは押し切りました。友達の存在がカミーユを弱くすると思ったのでしょうね。カミーユは殺すだろうなと思いましたが、さすがに処刑人として超一級でいまだに現役の祖母には叶わなかったようです。私はオリファントへ送られました。それ以来は手紙のやりとりだったのですが、ふいに途切れました」


「何があったんだ」


 フランツはすっかり話に呑まれていた。


「祖母の手紙でわかりました。カミーユは突然人が変わったようになり、人を殺したくない、自分は処刑人などには向いていないと言い出したそうなんですよ。気になった私は本家に許可を取って船に乗り、トゥールーズへと再び向かいました」

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