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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十二話 もう昔のこと、過ぎたこと(6)

「何を話していた?」


「こいつが――ストレイチーが、お前と俺との過去のことを知りたいんだとよ」


「話したのか?」


ニコラスは嫌そうな顔になった。


「いや。話すわけないだろう。こんなやつに」


 フランツは嘲るように言った。


「ひどいですね」


 とは口では言っていたが、メアリーはいっこうに堪えていない風だ。


「さあ、行きましょうか」


 そして、歩き出す。


 フランツも十歩ほど送れて、続いた。ニコラスが並んだ。


「何なんだ、やつは」


 ニコラスは顔を歪めた。


「まあ辛抱しろ。俺だって離れたいんだ」


「聞こえてますよ」


 メアリーは後ろから言った。


――今なら殺せるか。


 フランツは考えた。無理そうだった。メアリーは悠々と背中を見せている。処刑人は幾つも身体に武器を仕込んでいるというから、下手に斬り掛かっては致命傷を食らう。


 もちろん、今は殺すつもりなどないのだ。そう思考実験をしただけだ。


フランツはかつて、親しく会話をしたアルトマン兄妹を無惨に殺した過去があった。スワスティカの残党を殺し尽くし秩序を作る必要性を心に念じて斬ったのだ。


 だが、今のような精神状態なら斬り損ねていたかも知れない。


 殺すべきときに殺せるように無駄な会話をメアリーとしない方がいいのかも知れない。


 たぶん、おそらく、きっと。


 さきほど、冷たいメアリーが一瞬だけカミーユへの感情を見せたとき、フランツの心はメアリーに惹かれ始めていたのだ。


 考えるのは嫌なことだった。


 ランドルフィでは煮え湯を呑まされた女だ。


 一般に男は惚れやすく、女は惚れにくいと言われている。


 ちょっと優しくして貰っただけで、のぼせ上がるのが男だ。


 そして、多くの女に目が眩みやすいとも言われる。


 別にフランツは優しくして貰ったわけではないが、惚れやすいのは間違っていないと考えると軽い屈辱だった。


「うざいやつだ」


 ニコラスは呟いた。そこには単に憎しみしか読めない。


 フランツは答えなかった。


――俺はルナが好きだ。


 心のなかでそう祈りのように繰り返した。メアリーに一瞬でも惹かれてしまった気持ちを打ち消すためだ。


 しかし、慣れた感情だとは言っても、改めてそれを言葉にするのは恥ずかしかった。


 ましてや、ルナはメアリーよりも先に殺すことになるかも知れない相手だ。


「どうしたフランツ?」


 ニコラスが怪訝な顔で訊いた。


「なんでもない……少し旅の疲れが出たようだ……」


「ふふふふふふん。ならばぼくが肩でもお揉みしましょうかあ!」


 オドラデクがやけに不自然な態度で二人の間に首を突き出した。なぜだか意図は読めないが、おそらくはまた嫉妬だろう。


――他の人間とフランツが仲よさそうにすることすら許さないと言うのか、それほどまでにやつが俺に見せる執着はなんだ?


 フランツはわかったような、理解したくないような微妙な気分になった。自分の気持ちを考えたあとだけになおさらだ。


「うわっ!」


 ニコラスはビックリしていた。


「これはオドラデクが変化したものだ。お前も知ってるだろ?」


「ああ、剣として与えられた……」


「ぼくは剣じゃないです! ぷんぷん!」


 オドラデクは怒ってみせる。

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