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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十二話 もう昔のこと、過ぎたこと(5)

「でも、それ以外に作戦が思い付きます?」


 メアリーは首を傾げた。


「むうう!」


 オドラデクは腕を組んだ。


「そんなの、ぼくが全部やっちゃいますって!」


「分身したら弱くなるあなたでは無理だって話になっていませんでしたか?」 


 メアリーは言った。確かにこれはオドラデクの弱点ではある。糸で身体を構成されたオドラデクは、身体を分裂もさせられるが、すればするほど弱くなり、糸一本ぐらいでは相手を殺傷などはとても出来ない。


「ぐぬぬ!」


 オドラデクは蛸のようにおぞましく悶えた。


 フランツはそれを見て思わず笑ってしまいそうになった。


「ではニコラスさん、よろしく」


 メアリーは気さくに手を差し出す。


 だがニコラスは握り返さなかった。


「アンドリッチ村の人たちにはお世話になってるんだ。挨拶をしてくる」


 そう言って駈け出した。


「可愛くないの」


 メアリーはぽつりと呟いた。




 ニコラスが戻ってくるまで一時間ぐらい掛かった。


 グウ。


 フランツは腹が鳴るのを恥に感じた。列車に乗っていたときは食欲もなく、食堂車輌にもほとんど行かなかったのだ。


「おや、シュルツさん、お腹が、すいてますね」


 グイッと腰を折って上半身をあざとく反り上げ、メアリーは言った。


「すいていない」


「身体は正直ですよ、ククク」


 メアリーは笑った。


「仮にそうだとして我慢するだろ」


「何かあげましょうか」


「いらん。毒が入ってるだろ、確実に」


 フランツは吐き捨てるように言った。


「いえいえ、もちろん私ちゃんが食べるやつですよ」


 と、やたらに小綺麗なポーチを懐から取り出して、中から乾パンを取り出した。


「ぐぬぬ。ぼくがあげようにも全部食べちゃった!」


 オドラデクはそれを見て叫んでいた。


「そんなに気になるなら私が半分食べますけど」


「お前なら半分にだけ毒を仕込んでいる、みたいな真似はやりそうだ」


 そうは言いながらフランツは乾パンをまるごと受け取った。


「信用がないですね。まあやってきたことがやってきたことだから仕方ない」


 メアリーは苦笑いをした。


「わかってるな」


 フランツは駆け足で戻ってくるニコラスを遠くから見た。


「お二人は仲が宜しいようで。過去どのようなご関係で?」


 メアリーが訊いた。


「お前でも知らないことがあるのか」


 一息に乾パンをかじってフランツは言った。

 

「私は神ではありませんからね」


「もう昔のことだ、過ぎたことだ」


 フランツは誤魔化した。まあ特にいざこざがあったわけではないので、言う必要を感じなかっただけだが。


「へえ面白い考えですね。過去にはこだわってしまいますね私ちゃんは」


 メアリーは言った。


「こだわる? お前が? バカか」


 フランツは吐き捨てるかのように言った。


  言った後で、カミーユ・ボレルなるフランツが一面識もない人物に対する妙なこだわりをメアリーが吐露していたことを思い出した。


「カミーユとはまた会って話してみたいですね」


 メアリーは目を細めた。


「お前を殺すかも知れないのにか」


 フランツは言った。


「ははは、それはないと前言いませんでしたか」


「おーい! フランツ!」


 ニコラスがやっと近付いて来た。


 メアリーには絶えず不審そうな目を送っていたが。

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