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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十二話 もう昔のこと、過ぎたこと(3)

「ニコラス!」


 フランツは駈け出した。


「フランツ!」


 向こうも近寄ってきた。ニコラス・スモレットは褐色の地味な毛を持つそばかすの浮いた身長の低い青年だ。


 二人は抱き合った。


 お互い生きて逢えたことが嬉しかった。

 

「フランツ! 怪我はないか?」


 ニコラスは訊いた。


「大丈夫だ。お前はどうだ?」


「少し負傷してな。スワスティカの残党とヴィトカツイ南部で戦闘してここに逃げてきたんだ」


「スワスティカ残党? カスパー・ハウザーか?」


「いや、ジムプリチウスだ」


「なんだと?」


 フランツは驚いた。ジムプリチウスの名前は先ほど列車のなかでスワスティカの亡霊たちが話していた。


 まさかニコラスが同じことを言うなんて。


「どこをやられた?」


「足だ……いや、傷を受けたわけじゃない…二週間ほど前だな。もう今はすっかり治ったよ。この村には世話になったから……しばらく用心棒のようなことをやっていたんだ。不審者が侵入してきたのかと見ていたら、まさかお前だとは」


「ジムプリチスと会ったときのことを詳しく話してくれないか?」


 フランツは急かした。


「ああ、奴は強いぞ。俺もずいぶん足を鍛えたほうだが、一撃も与えられず動きにまるで尾いていけなかった。追い掛けて崖から転落して……骨折しなかったのが幸いだった」


「災難だったな。だが俺もジムプリチウスを追っている。あともう一人、ビビッシェ・ベーハイムも」


「ベーハイム? やつは大戦中に死んだんじゃなかったのか?」


「いや、生きている。上長から話は訊いていないか?」


 上長とはイホツク・アレイヘムのことだ。フランツやニコラスにとって、指導教官であり、直属の上司にあたる。


「訊いてない。ビビッシェが生きているのか?」


「ビビッシェ・ベーハイムは……ルナ・ペルッツかもしれない。上長はそう言っていたし、ビビッシェの柩はペルッツ家の墓に埋められていて、なかは空だった」


「お前なら簡単に殺れるよ! だって、あのグルムバッハもテュルリュルパンもアルトマン兄妹も簡単にやっつけちまったっていうじゃないか」


「その話は訊いていたか」


 フランツは少し照れた。


「凄いよ。俺なんて誰もまだ殺せてない……やっと見付けた獲物には逃げられて……訓練と実技は大違いだ」


 ニコラスは項垂れた。


「お熱い再会の場面に大変申し訳ないのですが」


 メアリーが首を突き出した。


「こいつは何者だ……」


 ニコラスは少し怯えていた。


「あなたと同じオリファント生まれの処刑人メアリー・ストレイチーです」


 フランツが言うより早くメアリーが説明した。


「ストレイチーだと? たしか……」


「ええ、私の家系は戦前、スワスティカに協力しましたよ。しかし、今は必ずしもそうではない。ね、そうでしょ。シュルツさん」


「そっ、そんなやつを信じられるか!」


 ニコラスは立腹した。


「俺も本来であれば、こんなやつの助けは借りたくない。だが、ビビッシェ……ルナの一行は強力な助っ人を多く連れている。俺だけじゃ太刀打ちできないんだ。お前が嫌なら来なくて良いが、助けてくれるならお願いしたい」


 フランツは深く頭を下げた。

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