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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十一話 黒つぐみ(17)

「でも……もうちょっと、もうちょっとだけ待ってよ!」


 ルナはオーバーなしぐさで反対した。


「ペルッツさまがそこまで仰るなら……黒つぐみたちに関する願いを叶えて頂けますか? 可能でなかったなら、なしでもかまいませんが」


「いえいえ、叶えます! 叶えます!」


 ルナは両手を大きくヒラヒラ振りながら叫んだ。


――安請け合いして大丈夫なのかよ。


 ズデンカは呆れた。


 ルナはあまり法外な願いは叶えられない。例えば、永遠の寿命を得たい、尽きることのない財宝を獲たい、などはその最たるものだろう。


 もっとも前者についてはズデンカは思うところがある。でも、吸血気にしても永遠の寿命ではないし、とうに人ではなくなっているのだから元も子もないと言えるだろう。


 それ以外にも叶えることの難しい願いなどたくさんある。ルナができるのはほんのちょっとしたことだけだ。


 記憶を忘れさせたりすることならできるが、ルナは最近その能力を使って悪い結果を出してしまった。


「黒つぐみたちに、何でそんなに私の言うことに従ってくれるの、って訊いてみたいんです」


「おや、でもあなたは鳥たちの話を訊けるのではないですか?」


 ルナは首を傾げた。


「はい、一度訊いてみました。でも知らないと答えるんです。世代が変わっているからって。でもあなたの言っていることには従わなければならないのだと親から言われて、それを守っているんだと」


「親の言いつけを守るのか。田舎の人間と同じだな」


 ズデンカは思わず漏らした。地方の生活がどれほど旧態依然としていて、変わることがないかは身をもって知っている。


「鳥たちは世代の移り変わりの速さが人間われわれとはぜんぜん違うからね。でも暮らしのパターンは人間よりもあまり変化が内容に思える」


 ルナは言った。


――確かそうだ。


 人間は世代が変われば考え方もどんどん変わっていく。社会のかたちも同じように。


 どれだけ先祖代々の伝統を大事に守っていようが、変わり者が生まれた時点であっけなく途切れる。地方の暮らしが嫌になって飛び出した人間をズデンカは知っていた。


 鳥も似たようなのかも知れないが、人間よりは変化が見られないようだ。


 何十年もずっと院長の言うことを守り続けた来たのだから。


「なるほど、あなたは最初友達になった鳥たちに再び逢って、なぜ自分を守り続けてくれたのか知りたいのですね」


 ルナは訊いた。


「はい、当時は幼過ぎて……そんなことを考える余裕すらありませんでしたので。本当に最近になって――老境に入ってから気になり出したのです。正直な話、私はちゃんと黒つぐみたちに報いられていない思いがするのです。なんども助けて貰って、命を救って貰って、私はそれだけの恩義に値する人間だったのか、はたして、疑問なのです」


 テレジアは静かに言った。


「よろしい! さっそく叶えて差し上げましょう」


 ルナは指を鳴らした。


 さすがにパイプを吹かすのは教会ではやめにしたらしい。


 ズデンカは安心した。


 するとルナの手袋を付けた指先に一羽の黒つぐみが舞い降り、足を降ろした。


「さあ、何でも訊いてください。時間はあまりないですよ」


 ルナは明るく言った。

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