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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十一話 黒つぐみ(15)

 ズラタンは階段を走り昇り、修道院長室まで迫ってきました。


 私は急いで部屋の中に入り、鍵を閉めました。


 あとは、罠が起動してくれるのを待つばかりです。


 しかし。


「クソ院長が! そこにいるんだろ? 絶対に殺すからじっとして待ってろよ!」


 罠は動かないようでした。きっと一人で登ってきたためでしょう。


 ズラタンは剣を扉にぶつけ続け、ボロボロに破壊し始めていました。


 絶体、絶命。


 私は怖くなりました。弾の込められた拳銃が一本ある以外は戦う方法はありません。でも、正確にズラタンを狙って撃てるような自身はありませんでした。


 射撃の訓練もまともに積んでいないのに、歴戦のズラタンに勝てる訳がありません。


 とうとう完全に扉は壊され、ズラタンは斧を振り回しながら入ってきました。


 私は銃を構えながら、後ろに後ろに下がりました。


「おめえも銃を持っているのかよ!」


 ズラタンは私を睨み付けて言いました。


「私たちの修道院に侵入するのを止めてください!」


 私は怒鳴りました。もう必死でした。


「金があるんだよ。ここにはな! ランコがどこに行きやがったか知らねえが、奴がはっきり言ったんだ。院長が財宝を隠してるってな!」


「ありません! 前の院長は財宝を隠していましたが、止めるときに持っていきました」


「関係ねえよ。これだけ武器が買えるんなら金もあるだろう。お前を殺して残らず貰っていく」


 ズラタンは斧を振るいました。


 私は発砲しました。弾はズラタンの肩を貫きます。


「畜生!」


 ズラタンは私の手の甲を蹴り上げました。


 痛さに思わず銃を取り落としてしまいます。


「お前は絶対に簡単に殺さん。どこまでも苦しめて殺してやる」


 ズラタンは自分の銃を抜いて私の額に突き付けながら言いました。


「まずどこから撃ってやろうか? 足か……それとも腕か」


 引き金を降ろそうとしたその時です。


 とてつもない数の羽ばたきの音が聞こえました。


 窓から一斉に黒つぐみたちが入ってきてズラタンに飛びかかったのです。


「やめろ!」


 顔全面を蔽われたズラタンは大声を上げながら黒つぐみを引き毟って地面に叩き付けますが、また新しいつぐみたちが飛びついてきます。


 私はそれを見て胸が張り裂ける思いでした。


 ああ、つぐみさんたち! そこまでして私を守ってくれるなんて!


 孤独で他に友達のいなかった子供時代からずっと、既に世代は移り変わっていましたが、つぐみたちはずっと私の友達でいてくれました。


「今の隙です! ズラタンの心臓を狙ってください」


 つぐみたちは言いました。


「でも……つぐみさんたちが!」


「私たちは構いません! さあ、早く!」


 私は拳銃を拾い上げ、ズラタンを撃ちました。


 何匹もの黒つぐみたちが一緒に命を落とし、白いお腹を見せてひっくり返ってしまったのが悲しくてなりませんでした。


 それと一緒に外で激しい音が鳴りました。


 ズラタンの手下たちが群れ集って階段を上がってきたので、罠が作動し、皆床板の下に敷き詰められた針の上に落ちて串刺しになったのでした。


 血潮が壊れた部屋の扉から部屋の中にも飛び散りました。


 でも、私はそれでやっと一安心できたのです。

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