第七十一話 黒つぐみ(14)
「みんな、しっかり狙って!」
銃眼を前に修道女たちを並ばせて、私は命令しました。
事前に近くの山に入って射撃訓練を行っていたのですが、人目も気になりあまり時間を掛けられませんでした。
激しい銃声が響きました。何発かは外れましたが命中したものもあるようです。
ズラタン一味の何人かが路面に倒れ伏しました。
「敵が居やがる!」
先頭の人影が何か叫びました。
「訊いてねえぞ! ランコが開けるんじゃなかったのか?」
「撃て! 撃て!」
敵方から銃撃が始まりました。
「みんな、伏せたままで!」
私は叫びました。もう、必死でした。神さまに祈りを捧げたくても、その暇すらないのです。
隠れたままでいても、絶え間なくつぐみたちが窓から飛んできて、戦況を報告してくれます。
流れ弾を受けて亡くなったつぐみさんもいました。
神よ……。その魂に安息を授けてくださいますように。
こちらが灯りの下にいるぶん、はるかに有利です。
激しい撃ち合いにはなりましたが、修道女たちに負傷する者はいませんでした。
「できるだけ近づけないようにして!」
「はい!」
みんな、私の指示に従ってくれます。こころから感謝したい気持ちでした。
でも、強盗団のほうが戦い慣れています。物凄い速さで修道院へと突撃していることがわかりました。まだ三分の一も人数を減らせていません。
つぐみの話では、強盗団は血眼になっているようです。仲間を殺されたのですから当然でしょう。
「みなさん、突入してこられます! 熱湯を上からかけましょう!」
既に大釜で涌かした熱湯を小さめの鉄桶に注ぎ、修道院門前の銃眼の前まで持っていっていました。
「院長、あなたは院長室に戻ってください! 罠が仕掛けてあるので、あそこは安全です!」
「でも、わたしはここで一緒にあなたたちと戦わなければ!」
「いえ、大丈夫です! 院長が殺されては、元も子もありませんから」
私は悲しく思いました。
この地位まで成り上がるためにわたしはつぐみさんたちの力を借りて、修道女たちの個人の生活の秘密を知り、欲しがってるものを与えるといった、良くない手段を借りてきました。
みんなの心服も結局私が仕組んだことなのです。なのに、そんな私にここまで尽くしてくれるなんて。
階段までは上がりましたが、なお、自室には入りかねて、遠巻きに様子を観察していました。
門の前を斧で破壊し始める強盗団。
修道女たちはその上に熱湯を注ぎかけ、続けざまに発砲しました。
これが功を奏したのか、かなりの人数が打ち斃されました。
でもズラタンは背後で指示をしていたので無償で、すかさず、
「撃て!」
と命令を下しました。
銃を握っていた修道女たちは銃弾を浴びて倒れ伏します。
門が蹴破られました。怒濤のように男たちが雪崩れ込んできます。修道女たちのある者は棍棒で殴り殺され、ある者はウィンプルを引き剥がされ、何度も殴打されます。
ズデンカさんはもしかしたら違うのかも知れませんが……女が男に力の差ではとても叶いっこないのですから。
でも、勇気ある修道女たちは遠くから銃弾を撃ちかけました。
さらに一人、また一人と強盗団は死んでいきました。
「クソアマどもが、抵抗しやがってよ! ランコ、おいランコ! どこ行きやがった?」
でも、ズラタンは剣を引き抜いて物凄い勢いで駈け出していきます。




