第七十一話 黒つぐみ(11)
でも、もう修道院は隅々まで話を訊きましたし、大人同士のあれこれも、私が大きくなってしまえば、面白くも何ともありません。
自然と話は、町の外のことへと広がりました。
私はパヴィッチの町のなかへはほとんど行ったことがありません。
生まれたのは南の町でしたから。あら、ズデンカさんもそうなんですか?
いつの時代の頃でしょうか? ふふふ。これは失礼しました。
でも、修道女という身分ですから、簡単には出かけさせて貰えません。
そこで、黒つぐみたちを送って隅々まで調べ尽くして貰いました。
いやはや、世の中は恐ろしいところでした。
普通にあちこちで殺人が起こり、強姦、窃盗、強盗、放火、なんでもありでした。
今だって変わりません。人のやることには昔からそう違いはないのでしょう。
いままで堕落に満ちあふれていたと思えていた修道院が、この世の楽園のように思われてきたのですから不思議なものです。
つぐみたちから恐ろしい事実を聞いた私は、そんな恐ろしい世界がこの修道院のなかに入り込んで来ないようにしなければならないと思いました。
勉学に打ち込み、誰よりも抜きん出るようにしなければならないと思いました。
もちろんそれだけではなく人心掌握も必要です。
つぐみたちの情報が役に立ちました。
何もかも筒抜けなのですから、好きなものも考え方まで事細かにわかります。
院長には取り入り、かといって他の修道女からは憎まれないようにする方法を私は知らず知らずのうちに身につけていたのです。
時が来て、私が修道院長になることができたのはまあ、当然のことでした。
自信家に見えますか? まあ、それぐらいじゃなければやっていけませんよ。
でも、そこで事件が起きたのです。
修道院にはもちろん男性の司祭さんたちがいますし、男性が出入りすることも多々あります。
用心には用心を重ねなければと思った私はつぐみたちを男たちの間にも送って、その動向を調査していました。
すると、恐ろしい計画がわかったのです。
「一夜のうちに修道院の人間を皆殺しにし、金銀財宝をすべて奪い取る」
外部の強盗団をなかに引き込もうと企んでいるようなのです。
お金などほとんどありません。前の院長は辞める前に隠していたものを一切合財持っていきましたから。
でも、どこかに財宝があるという情報はいつの間にか漏れていたのでしょう。
私は戦々兢々としました。
戦う力など私たちは持ち合わせていません。つぐみたちも非力です。
むざむざ殺される訳にはいかないので、私はあれこれと考えを巡らしました。
まず、内部対立を狙ってみるのはどうでしょうか。どこまに穴があるはずです。
私は襲撃者のグループを細かく調べ上げてみることにしました。
まず、強盗団と繋がりのあるのは助祭のランコでした。賭け事にはまり、お金をいつも切らしているのが結びつきが生まれたきっかけだったようです。
強盗団というのは、そのころパヴィッチ全土を騒がしていた『赤いオオカミ』で、ズラタンという男が頭目のようです。
とても強欲かつ残忍な性格で、盗みに入った家の住人は皆殺害することを決まりとしているのでした。




