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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十一話 黒つぐみ(10)

「うん」


 私は肯いました。


 鳥たちは一斉にさっと木の枝を離れます。


 そのせいか杜松自体ががさがさと左右に大きく揺れました。


 私の全身はまたも震え始めました。


 でも、黒つぐみたちは優しくて。


 私の肩や背中やいたるところに止まりました。


 黄色をした固い嘴を持っていて、突かれるといたそうでしたが、みなじっとしていました。


 私はおそるおそる、その鱗じみたお腹の黒斑の毛並みを撫でてみました。


「くすぐったいなあ!」


 撫でられたつぐみは口を大きく開けて笑いのような声を上げました。


「ふふふふふ」


 私もつられて笑いました。


 つぐみたちも大笑いしました。


 私たちは友達になったのです。


 さて、どのような遊びをすればいいのでしょうか?


 いろいろのお話ししながら、私たちは一緒に考えました。


 思い付いたのは、修道院内の冒険です。


 実は私は修道院のなかをちゃんと歩いたことはないのでした。


 中庭に出ることは自由に許されているのですが、大人たちのいる領域に入った途端、私は小さな房のなかに閉じ込められて、鍵を掛けられ、監視付きで朝夕の食事を終えた後は、本を読んで勉強し、祈祷を覚えることを強いられるのでした。


 若い修道女は共同房なので、個室は良いと言えば良いのですが、年頃の子供にとっては退屈で退屈で仕方なくて。


 なぜ大人たちは、こうも頑なに自分たちの生活を見られたくないのか?


 私は疑問に感じていました。


 冒険できるようになれば暴いてやることもできるのに。


「みんな、修道院のなかを見て回って、面白いことがあったら伝えてちょうだい」


 私はお願いしました。


「もちろん!」


 つぐみたちは小さな頭をこくこくと動かして同意してくれました。


 いながらにして修道院の大冒険が始まりました。


 私は房の窓辺に坐りながら黒つぐみたちがやってきて修道院の他の人々の物語を訊きました。


 そしたらまあ、実に何と言う俗に塗れた人たちなのでしょう!


 修道院長はたくさんのお金を自室の隠し部屋のなかに蓄えていました。


 黒つぐみたちは院長が金貨の入った袋を取り出してほおずりしているところを見たのです。


 そう、その本棚を退けると、小さなのがあるんです。


 今は何もありませんよ。空です。私はお金には執着がないので!


 もちろん、嘘です。でも前の院長ほどではありませんよ。


 他の修道女たちも似たり寄ったりでした。深夜こっそり互いの寝床にもぐり込んでいけない遊びをしていたのです。もういい年齢になっていたのに。


つぐみたちはつぶさに見たままを伝えてくれました。


 どれだけ勉強したりすることが馬鹿らしく思えたことでしょう。


 でも、私はむしろつぐみたちと楽しくお喋りして、時間を過ごす方が楽しかったのです。


私が院長を馬鹿にするとつぐみたちは当然のように同調してくれます。


 少し毒のある内容であっても。


 年頃の友達を持たない私にとっては初めての体験で、それ自体が楽しかったのです。


 さて、そんな風に時を過ごして私は大きくなりました。


 勉強はもちろん続けました。そのお陰で今の地位に昇り詰めましたからね。


 わたしは修道女になり、皆と同じ共同寝室で暮らすようになりました。


 なので秘密の会合は中庭で行われるように変化しました。

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