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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九話 人魚の沈黙(1)

トゥールーズ人民共和国西部――



 スワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツはエルキュール発の夜汽車に揺られていた。


 車輌には他に人影がない。車掌が来たのはもう三時間も前だ。


 時折、車輪が枕木を軋らせる音がして、震えが伝わってくる。


「ルナ・ペルッツは昔、知らない場所へ旅することを『夜汽車に乗る』と呼んでいた」


「それは彼女が、移動によく夜汽車を使っていたというだけの話じゃないでしょうか」


 女とも男ともつかない、高めの声がどこかから答えた。


 だが、少なくともフランツの前にも後ろにも誰も坐っていない。


「いや、人生を旅に喩えていたんだろうさ、やつは」

「そういう喩え方ですか。なら人生という旅には終着駅があるでしょうね、あなたにも」


「陰気くさいことを言うな」


 フランツは冷たく言った。


「あなたの顔が陰気くさいからです」


 顔の見えない相手は答えた。


「生まれつきこう言う顔だ」


 フランツは腰に差した大きな鞘から柄を抜き放った。


 不思議なことに刀身がない。


 代わりに細い、幾本かが寄り合わされた糸が柄から伸びていた。


 フランツが無言で糸を引くと、中から星形をした糸巻きのようなものが出てきた。星形の真ん中には棒が一本通っていて、この棒から直角にまたもう一本棒が突き出ている。


 妙なかたちだった。だが、その妙なかたちをしたものが喋っているのだ。


「黙ってろ、オドラデク」


 フランツはそのオドラデクと呼ばれた物体を摘まみあげようとしたが、するりと指をすり抜けられた。


 オドラデクはクルクルとフランツのまわりを浮遊していく。


「人生という夜汽車に相乗りの相手がいなくても、あなたにはいるでしょう。ぼくという相手がね」

「お前はただの武器だ」


「武器! ああおかしい!」


 オドラデクは笑った。肺がなくても出せるような笑いだ。落ち葉がかさりとなるように響いた。


「ぼくがいなくても、あなたは勝てるでしょう」


 フランツは黙った。これ以上会話を続けても無駄だというように。


 夜汽車はトゥールーズ西部の村ヴェルハーレンへ向かっていた。


 フランツの目的はただ一つ――スワスティカの残党を狩ること。


 フランツは書類入れを鞄から取り出して、無言で読み始めた。オドラデクが後ろから浮遊してきた。


「へー、この人が次の標的って訳ですね」


 古びた写真には筋骨隆々とした四十ばかりの大男が映されていた。


 名前は「ゴットフリート・フォン・グルムバッハ」と書かれている。


 旧スワスティカ親衛部特殊工作部隊『火葬人』席次三。


 『火葬人』は多くのシエラフィータ族の殺害に手を染めた、フランツにとって絶対に許されざる存在だった。


 リストに挙げられた五名のうち三人は死亡したとされている。


 グルムバッハはもともとオルランド公国領内の位の低い貴族だったが、スワスティカに早くから同調し、幹部にまで成り上がった。


 幾つかの収容所では実際殺戮に手を染めたという話も聞いている。


 そのグルムバッハが生き延びて、トゥールーズ人民共和国に潜伏している。


 猟人仲間の一部の筋からもたらされた確実な情報だった。


 フランツは目をつぶって過去のことを思い返していた。

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