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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十一話 黒つぐみ(7)

「あ、あそこだ!」


 そして、不意に一方向を指差した。


 修道院の中庭だった。鬱蒼とした杜松ねずの木に囲まれており、中央には古びた噴水がちょろちょろと音を奏でている。


「一体何だ?」


ズデンカは嫌な気分になった。


「よく見てください」


 ヴィトルドは言った。


 見るとその噴水の横に黒い修道服を纏った老女が独り立っていた。


「何か変なのか?」


 ズデンカは訊いた。


「服も黒いのでわかりにくいかもしれません。さらにじっくりご覧になってください」


 ズデンカはさらに目を細めた。暗闇でも見通すことができるのに、真昼の黒は見わけられないとは少し癪だった。


 その服はたくさんの鳥――黒いつぐみが群がっていた。


「何だあれは」


「さあ」


 ヴィトルドも首を傾げる。


「訊いてこい」


「俺がですか? ここは男子禁制ですよ?」


 ヴィトルドが粟を食っていう。


「あたしが訊けってのか」


「そうなりますね」


「はあ……」


 さいわい修道女は目をつむっているし、気付かれていないようだ。


 ズデンカは杜松の林の中へ静かに降りていった。それでも無数に木の枝が腕を貫いたがみるみるうちに回復していく。


 ズデンカは林を抜けて修道女へとゆっくり近付いた。


「あの、少し話があるのだが」


「……」


 修道女は答えない。


「おい」


 ズデンカは声を荒げた。早くパヴィッチなど出立したかったのだ。


「なんでしょう」


 皺茶くれた目がうっすらと開いた。青い瞳が明らかになった。


「連れがいる。預かってくれないか? もちろん、女だ」


「ずいぶん、単刀直入に仰いますね」


 修道女は返事をした。


「急いでいる。時間がないんだ」


「なら、あなたさまがどのような方か教えて頂かないことには返答も致しかねます」


 穏やかでありながら、厳しい答えだった。


「あたしはズデンカ。ルナ・ペルッツのメイドだ」


「ペルッツさまですか。とても高名な方でいらっしゃいますね。わたしはここの院長を勤めておりますテレジアと申します」


 もちろん、それは修道女としての名前で、本名は違うだろうが、ズデンカにとってはどうでもいいことだった。


「知っていたか、なら話が早い」


「実際に会わせて頂かないことには……」


「……わかった。ちょっと待ってろ」


 ズデンカは空へ浮かび上がった。テレジアはそれを見ても腰を抜かさず、じっと見詰めていた。


――大したやつだな。


 ズデンカはヴィトルドのところに戻った。


「お前はここにいろ。あたしはルナたちを連れてくる」


「は、はい」


 ヴィトルドはどもりながら答えた。


 ズデンカは物凄い勢いでルナの元へとすっ飛んでいった。


「ルナ」


「見つかった?」


 ルナの顔色は心持ち良くなっていた。ズデンカは安心した。


「ああ、修道院長と話をしたが、お前に会いたいらしい」


「何か綺譚おはなし知ってるかな」


 ルナはぼそりと言った。


「さあ、だが一緒にこい」


「わかった」


 まだ目を覚まさないアグニシュカを抱えながらカミーユも尾いてきてくれた。


「あたしが代わろうか」


「いえ、大丈夫です。今襲われたとして、ズデンカさんが一番戦えると思うので……」


カミーユの過去の話が頭の中を過ぎるのを振り切ってズデンカは修道院へと向かう道を歩き続けた。

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