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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十一話 黒つぐみ(6)

「どうするつもりだ?」


 ズデンカは訊いた。


「エルヴィラさんを探さないと!」


「止めておけ。アグニシュカを預かってくれる人を探したら後は帰ろう」


 ズデンカは言った。


「でも、でも……」


 ルナはなお食いさがった。


「ルナさん、帰りましょう。銃声もだんだん聞こえなくなっているし、きっとゴルダヴァ軍がほぼゲリラ兵を鎮圧したんじゃないかと思います! エルヴィラさんもはきっと無事ですよ」


 カミーユもズデンカに同調するように言った。


「カミーユまで!」


 ルナは絶望的な声を上げた。


「お前といた方があいつらはより不幸な目に合うかも知れん」


 ズデンカはルナの目を見詰めながら言った。


「え! どういうことだよ」


 ルナは食ってかかった。


「ジムプリチウスはお前から全てを奪うと言っていた。逆に言えばお前が関わらなくなれば、もう二人を追うことはないだろう」


 ルナは俯いた。


 プルプルと震え始めていた。ズデンカはその肩を叩いた。


「わかったよ」


「よし、行こう」


 ズデンカは歩き出した。


 ルナがとぼとぼついてくる。


「ズデンカさん、エルヴィラさんを預かって頂けそうな場所見つかるんですか?」


「さんざん探して無理だった。だが、絶対に見付けないといけねえ」


 ズデンカは言った。


「修道院はどうでしょう?」


 ヴィトルドが突然口を挟んだ。


「あ?」


 ズデンカは声を荒げた。


「い、いえ……身寄りのない女性が修道院に身を隠したりということはよく訊きますので……」


 ズデンカは教会や修道院の類いが大嫌いだ。 なぜか全身に悪寒が走るのだ。


 これまで一度たりとも足を踏み入れたことがなかった。


 だが、前の行った邪宗門カルト『パヴァーヌ』の教団施設では全くそんなことはなかった。


 つまり、何か本当に吸血鬼など闇の住人を脅かす何かが教会にはあるのだろう。


 ルナの場合は異教徒だ。あまり入りたくはないだろう。


 だが、アグニシュカにとっては出来る限り安心な場所と考えられた。


「この街にも、修道院はあるはずです。というか先ほど空から一望したときに北部にあったような……」


「アグニシュカが回復するまでならいいかもしれない。交渉を行う必要があるな。だが、あたしは遠慮しておく。カミーユ、やってくれるか?」


 カミーユが両親を殺したと言う話は忘れていなかったが、自分やルナよりも上手くことを計ってくれるだろう。


「はい、もちろん!」


 カミーユは言った。


 ルナは何も言わなかった。ズデンカは勝手に動くことにした。


「頼む」


 アグニシュカを優しく降ろし、カミーユに預けた。カミーユも問題なく抱えることが出来た。


「ヴィトルド、お前もついてこい。手分けして探すぞ」


 ズデンカとヴィトルドは目立たない場所を選んで空へと浮かび上がり、街中を探した。


 しばらく北に進んだところで、啼き声が聞こえてくる。


 鳥の声だ。


「あれはつぐみだな」


 ズデンカは記憶から言った。


「へえ、鳥の声などいつも聞き流していたのでわかりませんでした。ズデンカさん、予想外に物知りなのですねえ」


 ヴィトルドはただただ感心してみた。


「おめえがあまりにこだわらなすぎるだけだろ。あたしだって鳥に詳しいわけじゃねえが耳にしたことはある。ったく……だから……」


 だから女に嫌われるんだと言いそうになってズデンカは止めた。さすがに酷い気がしたからだ。

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