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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十一話 黒つぐみ(1)

――ゴルダヴァ中部都市パヴィッチ


 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツのメイド兼従者兼馭者だが今は歩きの吸血鬼ヴルダラクズデンカは、先ほど耳にした事実をそう簡単には信用出来なかった。


 ヴィトカツィのコジンスキー伯爵令嬢エルヴィラは園丁の娘で恋人でもあるアグニシュカの眼の前でルナに殺害されたという。


 だがそれはルナの姿をした何か別のものによる行いではないかとズデンカは考えていた。


 まず疑われるのが元スワスティカ宣伝相ジムプリチウスだ。なぜか突然ルナの前に現れて「ゲーム」とやらの勝負を挑んできた。


――ルナから全てを奪いみてえなことも言ってやがったな。


 その一環としてルナの繋がりのあるエルヴィラを殺めた……と勝手に考えていたのだ。


――だが、エルヴィラが生きているとは……。


「嘘じゃねえだろうな。常々クソ野郎だとは思ってきたが、まさかこの後に及んであたしを騙すつもりならもう容赦しねえぞ」


 情報を伝えてきた超男性のヴィトルドをズデンカは睨み付けた。


 睨み付けるどころではない。両目に穴を開けてやるほどの勢いでだ。


「うっ……嘘なんかじゃありません! 実際その眼で確認して頂ければ」


 ズデンカは尾いていくことに決めた。だがいまズデンカはアグニシュカを抱えている。


――どこか、安全な場所でも探してやらなきゃな。


 鼠の三賢者であるはずのメルキオールはとても頼れないので、ズデンカはほうぼうの宿へ声を掛けてみたが、信頼できそうな店は見つからなかった。


――エルヴィラと顔合わせをすればどうなるかはわからないが……連れていくしかねえ。


 ズデンカは決心した。


 ヴィトルドと並んで、空を飛ぶ。


「近付いてくんなよ」


 ズデンカは牽制した。


 ヴィトルドは寂しそうだ。少し悪い気もしたがアグニシュカがいるため変に近寄らせたくはなかった。


  先ほどの料亭に辿り着くとすぐ中に入った。


 ちょうどアグニシュカも一心地着いたらしく、


 エルヴィラが――間違いなくエルヴィラが後ろ姿で席に着いていた。


 ルナはその前で坐っていた。澄ました顔をしているがよく額をみると汗が浮かんでいる。実際パイプから煙も洩れず、棚一面にぶどう酒が置いてあるにも拘わらずまるで手を付けていない。


――よほど動揺しているのだろう。


 ズデンカと眼が合って、ルナは神経質に微笑んだ。


「君……」


「どうした、何があったんだ?」


 ズデンカはとりあえず訊いた。


「エルヴィラさんが……アグニシュカさんを探しに来たって」


 エルヴィラは立ち上がって後ろを振り返った。


「アグニシュカ……アグニシュカ……どこへ行ってたの?」


 アグニシュカへ近づこうとする。


 ところが。


 アグニシュカは身を引いた。


「あなた……どなたですか?」


「……え?」


 エルヴィラは呆気にとられた表情だった。


「冗談? え、冗談でしょ?」


 最初は半笑いにだが、だんだん悲痛な表情になりながらエルヴィラは繰り返した。


 涙が目に浮かんでいる。


 ズデンカはその痛みがわかった。


 ルナに目をやるとこちらは唇を噛み締めている。思わず笑いたい感情が起こるほど、何とも言えない情けない表情だった。


 だが、ルナは物凄い自責の感情を堪えているはずだ。

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