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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十話 鬼剝げ(11)

 もちろん、合理的に考えればズデンカのほうに勝ち目がある。


 ルナは男には興味がない。だから長い付き合いの友人と言っても、フランツを好きになることはないだろう。


 だが、別にルナと恋仲になることが、本質的なゴールではない。


 ルナと一緒にずっといられるかが問題だ。 ルナもフランツも人間である以上、寿命は短い。


 ズデンカの人生ははるかに長いから、ちょっとした感覚のすれ違いで同じ時代を生きられなくなるかも知れかった。


ズデンカにはそれが怖かった。フランツは同じ時代を生きられる。


人間でいる限りは。


――ヴルダラクにしてやるか。


 と考えたがすぐに否定した。吸血鬼にしたら一番厄介な奴だし、ズデンカより強いと思われる連中に囲まれている今襲うことは難しい。


――こいつは殺さなきゃならねえ。


 だが正直ズデンカは乗り気になれなかった。フランツを殺したらルナが悲しむと思ったからだ。


「お前がどう思おうが関係ねえ。歯向かってくるなら戦うだけだ」


 ズデンカは言った。感情のそよぎを表に出さないよう注意を払いながら。


「俺はルナ本人に聞きたい。絶対に探しだして直接聞いてやる!」


 フランツはズデンカを睨み付けながら叫んだ。


「勝手にしろ」


 ズデンカは壊れた窓から車室に入り、中で震えたままでいたアグニシュカの横に立った。


「もう大丈夫だ。話はつけた……鬼は去ったんだ」


「……」


 アグニシュカはそっぽを向いた。


 ズデンカはそれを横抱きにして、また車窓から外に出た。


いてくんなよ」


 ズデンカはフランツたちにそう言い置いて遠ざかった。


――どこへ、こいつを連れていったらいいんだ。


 軽く迷いながら。


 ゴルダヴァを越えて、ヴィトカツィまで引き返すか。空飛べばできないことはないが、今はルナが心配だ。


――引き換えそう。


 パヴィッチ北部はまだ安全な場所もある。わざわざ国を抜けるよりも良さそうだ。


 ズデンカは北に抜ける振りをして、山沿いに進み、やがて静かに飛び立って南部へ迂回した。


 アグニシュカはとても疲れたらしく項垂れていた。


 ズデンカも会話はせずに飛行を続けた。


 パヴィッチに到着すると人目を忍んで建物の影に降り立った。


 ズデンカは自分の肩を突いた。


 メイド服の内側に隠れていた鼠の賢者メルキオールが頭を擡げた。


「つい眠ってました。ズデンカさん体温が低いから寝心地悪そうと思ってたんですが、案外熟睡できました」


 ズデンカは不快に感じたが、それは押し殺して、


「この近所でなんか寝泊まりできる場所はないか? 安全なところで」


「さあ……ぼくもこの街はそう長く居着いてるわけでもないですからね」


 メルキオールは尻尾を揺する。


「ズデンカさん!」


 ヴィトルドがあからさまに空を飛んで駆けつけてきた。


「お前はちったぁ気を付けろ。白昼堂々だぞ」


 実際多くの人たちが空を見上げてヴィトルドを指差していた。


「そんなこと言っていられません……実は、困った事態になりまして……」


 ヴィトルドは説明した。


「なんだ。はっきり言え」


 ズデンカは腹が立ってきた。


「ええと、初めての方なので名前があっているか不明なのですが……コジンスキ伯爵令嬢が……」


 ヴィトルドは同国人らしくそちらの名称は知っているようだった。


「エルヴィラのことか?」


 ズデンカは訊き返した。


「はい。生きて、眼の前にやってこられまして……」


 ヴィトルドは言いにくそうに説明した。


「何だと?」


 ズデンカは驚きを抑えるので必死だった。

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